なんていうか、うん。不毛だ。
僕たちは圭介を挟んで3人でシートに腰を沈める。
全米一位というありふれた冠を引っ提げたアクション込みの恋愛映画はそれなりに面白くて、けれどきっとすぐに忘れてしまうんだろうなという内容だった。
エンドロールが終わってから席を立ち、映画館の入口まで来たところで「ちょっとトイレに行ってくる」と圭介が離れていく。
取り残された僕たちは、手持ち無沙汰に立ち尽くす。
彼女はにこやかに微笑みながら、圭介の背中を視線で追っていた。
言うなら、今しかない。僕は意を決して口を開く。
「すみません、香澄さん」
こちらに向けられたその顔は、妙にあどけなく見えた。
周りの人に聞こえないように、小さな声で僕は願いを口にする。
「圭介と別れてくれませんか」
彼女は僕を上目遣いで見つめて、少し黙った後でゆっくりとかぶりを振った。
「いやです」
強い意思の篭った瞳に、それでも僕は怯むことなく訴えかける。
「どうして圭介なんだ。お願いだ、やめてくれ」
スッと目を細めて、彼女はきれいにマスカラの付いた長い睫毛の下から僕を見上げる。
ああ、気づいたのかもしれない。
「あなた、もしかして ─── 」
「ごめん、待たせた」
早足で近づいてくる圭介に、僕たちは視線を向ける。
この場を取り巻く奇妙な空気を感じ取ったんだろう。眉を上げながら、圭介は僕たちを交互に見つめておもむろに口を開いた。
「うん、どうかした?」
「航さんから、圭介くんの子どもの頃のこととか聞いてて。ちょうどいいところだったのに」
「うわ、やめてくれよ。航、何喋った?」
「秘密。ね?」
そう言って向けられる微笑みは、普通の男なら誰しも心を奪われるほどにかわいらしいものだった。
喰えない子だな。
僕は適当に頷きながら、この危機的な状況をどうしたものかと思いあぐねていた。
*****
圭介と彼女はとてもうまくいっているように見えた。
お似合いの2人はとても仲睦まじくて、僕の焦燥感は募るばかりだ。
─── 彼女と別れてほしいんだ。
そんなことを言うわけにもいかなくて、僕は悶々とした毎日を過ごす。
いや、別れたところでどうしようもないのかもしれない。
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