震える声でそう言って、視線を逸らす。その顔が、無性にかわいく見えて。手元に置いていたグラスの水を呷って口に含んでから、泣きそうに揺らめく瞳に吸い込まれるように口づけた。口移しで水を流し込めばジュンヤは目を見開いて、それでも喉を鳴らしながら何度かに分けて飲み込んでいく。「 ─── ん、ん……、ちょっ」「お前が水飲みたいって言ったんだろ」角度を変えて唇を塞ぎ直せば、押しのけようとするその手から力が抜けていく。開いた唇の隙間に舌を滑り込ませて、吐息ごと舌を絡め取る。そのままベッドに乗って上から覆い被されば、細身の肢体に力が篭っていく。押し潰さないようにゆっくりと体重を掛けていくうちに、諦めたように組み敷いた身体が弛緩していった。そうだ、おとなしくしろよ。お前が煽るのが悪いんだ。舌を動かす度に響く濡れた音を、耳がきちんと拾っていく。触れ合う全部が熱くて、ああこいつは本当に酔ってるんだなとわかった。「ん……、ケン、ト……」唇を離した瞬間俺の名を呼ぶ甘い声は、どんな音楽よりも俺を熱くさせる。このまま、全部俺のものにしてやりたい。「ジュンヤ、好きだ」心の奥底に閉じ込めていた感情が、急激に溶け出していく。「好きだ」もう一度、想いを口にして、唇を啄ばもうとしたそのとき。鼻先から、安やらかな寝息が聞こえてきた。「 ─── おい」ジュンヤは深い眠りに堕ちてしまっていた。本当に、酔ってたんだ。完全に行き場をなくした情動を抱えたまま、俺は溜息をついて酔い潰れたベーシストの脇に寝転がる。きれいな寝顔はあどけなくて、まるで泣き疲れて眠ってしまった子どものようだ。賭けをしようか、ジュンヤ。目が覚めたとき、お前がこのキスを憶えていれば、俺はお前と同じ夢を追いかけるよ。ゆっくりと目を閉じれば、瞼に映像が浮かんでくる。広い空間を揺るがすように鳴り響くのは、DARWINのメンバーが演奏する聴き慣れたフレーズだ。無数のスポットライトを浴びながら、俺は全身全霊を込めて歌っている。隣で情緒的なリズムを刻むのは、顔はきれいだけどちょっと口の悪いベーシストだ。アンコールが終わり、目映い光で白んでいくステージの上で、俺はお前の手を取って高く掲げるだろう。目を合わせてから2人で前を向けば、ステージを囲む大勢のオーディエンスが歓声を上げているのが見える。それは、お前としか見ることのできない、最高のヴィジョン。『PARAMETRIC LANDSCAPE』 - 9 - bookmarkprev next ▼back