PARAMETRIC LANDSCAPE[8/9]

起きられないから、飲めないという。子どもみたいだ。

俺は溜息をつきながらグラスを床に置いて、ベッドの脇に座り込む。

何かを言いたげに見つめるその眼差しには、ゆらりと熱が揺らぐ。


「……何?」


間が持たなくて思わず問い掛ける俺を、いつになく真剣な眼差しでじっと見つめる。


「俺、ケントの歌が好きだ」


「いきなり何だ。気持ち悪いこと言うなよ」


こいつ、酔うと人格が変わるんだな。俺は小さく溜息をついて、適当にかわそうとする。本音を聞くのが、怖いからだ。

なのにジュンヤは、それにかまわず言葉を続けていく。


「ケントは、歌が上手くて表現力がある。確かにそんな奴はたくさんいる。だけど、ケントには人目を強烈に惹きつける何かがある。それは、誰にも真似できないお前だけのものだ。お前はすごい勢いでどんどん成長してるし、まだまだ上に行ける」


何度も息継ぎをして、言葉を区切りながら惜しげもなく賞賛を口にするジュンヤは、潤んだ瞳に俺を映しながら、ゆっくりと左腕を伸ばしてくる。


「憶えてるか? 初めて会ったとき、俺がお前について来いって言ったこと。でも、違ったんだ。お前が、俺たちを連れてってくれる。他のメンバーも皆、そう思ってる」


差し出されたその手は俺の肩に掛かり、弱々しく掴む。触れる掌の温度に鼓動が速くなる。

こいつ、本当は酔ってないんじゃないか?


「ケントは、俺が見つけたヴォーカリストだから。絶対に離さない」


「お前、ファンの子もそうやってオトすの?」


冗談のように口にした上滑りの言葉を、ジュンヤは気に留めることなく小さく首を振る。


「だから、頼む。やめるなんて言わないでくれ。お前と同じステージに立ちたいんだ」


俺はもう、返す言葉を失ってしまっていた。
DARWINをやめたいなんて、ひとことも口にしたことはない。でも、ジュンヤは気づいてた。


「俺は、お前と同じところに立って、同じものを見たいんだ、だって」


一旦、息を吐いて、吸って。決意を固めたような瞳をして、とんでもない言葉を口にする。


「お前のことが、好きだから」


「……どんだけ酔ってんだよ」


「酔ってなんかない」


「酔っ払いはそう言うんだって」


「ケントが悪い。あんなこと、するから」


ステージの上ではクールに振る舞う女たらしのベーシストが、たかがキスごときでここまで悪酔いしてる。それが俺には堪らなく新鮮だった。

ジュンヤは泣きそうな顔をしながら、小さな声で俺を咎める。


「3年間、俺がどれだけ我慢してきたと思ってるんだ。必死に諦めようとしてんのに、期待させんなよ、バカ……」



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