情事を終えて腕の中で優しく髪を撫でられているうちに、身体の内側を渦巻いていた熱が少しずつ引いていく。
「夏巳、次の日曜は空けておいて」
耳元で囁かれて小さく頷けば、柊悟さんは僕の瞳を覗き込む。
その唇から零れるのは、甘やかな誘いの言葉。
「指輪を買いに行こう」
そう言って僕の左手を取り、薬指の付け根を指先でなぞる。
「ここに嵌めるんだよ。いいね」
『結婚指輪をどうして薬指にするか知ってる?』
葉月の無邪気な問いかけに、僕はかぶりを振る。
『左手の薬指の血管は心臓に繋がってるという言い伝えがあって、そこから来てるんですって。ロマンティックね』
そう言って笑う葉月の左手には、上品な光を放つ真新しいプラチナのリングが煌めく。
─── 葉月、それは心臓に嵌められた枷だ。
「わかった。愉しみにしてる」
そう言って見上げれば、柊悟さんは美しく整った顔で夢見るように微笑む。
「愛してるよ、夏巳」
毒を甘味で包み込んだ言葉に、身体がまた熱を持ち始める。
目を閉じればいつでも思い出せる、深紅に浮かぶ青の色彩。
誰が葉月を殺したの?
その答えは僕たちしか知らない。
この関係が、赦されぬ罪で縛り付けられたものなのだとしても。
秘すればこれは、罪ではなくなる。
「─── 僕もだよ……義兄さん」
ああ、葉月。
君を失ったまま季節は巡り、あれから1年が経つ。
君から紅い血が流れたのは、あの指輪が心臓を絞めたせいなのだ。
何も心配することはないよ。
その枷は、君と同じ血を引く僕が継ぐから。
"Bloody Blue" end
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