Bloody Blue[1/8]

君は美しい女だった。

清楚でしとやかな容姿を備えた、朗らかで優しい君は、いつも周りを幸せな気持ちにさせていたね。

一点の曇りもない双眸も、見る者全ての目を引く浄らかな美しさも、陽だまりのような暖かな優しさも。君が持つもの全てが僕には眩しくて羨ましかった。

僕と同じ暑い季節を名に持つ君のことを、僕は本当に愛していた。

ねえ、葉月。

季節は巡り、君がいなくなったあの夏がやってきた。



*****



夏巳(なつみ)


強い陽射しの照りつく構内を歩いていると、後ろから大きな声で呼び止められる。

振り返れば、同じコースの佐潟(まもる)が駆け寄ってくるところだった。


「お前、歩くの速いな」


僕の隣に並んだ衛は、軽く呼吸を整えながらそんなことを言って笑う。

この暑さの中を走ってきたせいで、その額からは大粒の汗が流れていた。


「今日、うちのコースの奴らで試験の打ち上げするって言ってただろ。夏巳だけ、返事がまだなんだけど」


「─── ああ」


1週間ほど前にそんなメールが回ってきていたことを、今になって思い出す。

今日で大学の前期試験は終わり、僕はちょうど刑法総論の試験を受けて帰るところだった。


「ごめん、行かないつもりだった」


「バイト? どうせ違うだろ。用がないんだったら、来いよ。俺も行くからさ」


同じ法律総合コースに所属する学生たちとは、それなりに付かず離れずの付き合いをしていた。効率的に単位を取るには、1人でいるのは得策ではないからだ。


「まだわからないんだ。だから、今日は空けておきたい」


適当に言葉を濁すと、衛は口を噤む。降り注ぐ視線の痛さを感じながらも、僕は黙ったまま前を向いて歩みを進めていく。それでも衛は僕についてきて、また話しかけてくる。


「また、彼女?」


その口調にどこか避難めいたものを感じて、胸がざわつく。ざらりと舌に触れる砂を吐き出すように、僕はわざと棘を含んだ言い方で答えた。


「まあね、そんなとこ。悪い?」


衛の言いたいことは何となくわかった。誰と一緒にいても、僕は呼び出されればすぐにいなくなる。そして、他の人たちが『あいつは彼女にベタ惚れだから』と笑ってやり過ごすところを、衛はいつもどこか不機嫌そうな顔で見るのだ。


「我儘な女だな。ちょっと振り回され過ぎじゃないか」


「僕がそうしたいからしてるんだ。付き合いが悪くてごめん」


衛が気にしているのは、僕の付き合いが悪いことではない。けれど、これ以上不毛なやりとりを繰り広げるつもりはなかった。

衛が何かを言いかけた途端、ズボンのポケットで携帯電話が小刻みに震える。


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