だから好きで嫌いなの

「キリトくん、いくよっ!」
「おっけー、任せろ!」

戦闘中、息がぴったりなキリトとアスナ。
もちろん私も負けてないぐらい合ってると思うけど、それでもやっぱり格が違うというか。
見せつけられているというか。

「シノン!」

声をかけられる前に、アスナとキリトが倒しそこねた雑魚を弓で屠っていく。
弾丸の方が早いけど、リズベット特性の弓矢の性能は悪くない。
これなら、キリトのスピードにだってついていける。
だけど、そうじゃない。
そうじゃ、ない。

「「やった!!」」

ラストアタックを成功させたアスナとキリトはハイタッチをして、嬉しそうに笑みを交わした。
それがどうしようもなく苦しくて、シノンはそっと顔を背ける。

「シノン、援護サンキューな!」

キリトがにっこり笑って、そう言って手を挙げたから、私はそっけなく手をパン、と叩く。
それから弓をしまって、担いだ。
ALOの戦闘は、GGOにいた時と違って信頼できる仲間との戦闘だ。
前のようにチームに雇われて仕事をしていた時とは違う楽しさがあった。
だが、キリトとアスナとのチームに私だけが入るのは、どうにも気分が上がらなかった。
理由なんてわかっている。居心地が悪いのだ。
 キリトとアスナは付き合っている。
それは周知の事実で、私が割り込む隙間もなくて。
そんなことはわかっているけれど、それでもキリトと一緒にいたかったから、キリトとアスナのチームにこうして加わって、戦闘の補助をするのだ。
幸い戦闘中に余計なことを考える暇はほとんどないのでありがたいのだが、戦闘が終わった途端―――――さっきのような、嫉妬のような、悲しみのような、憤りのような、形容しがたい感情が流れ込んでくるのだ。

「しののん、今日もありがとう!」
「アスナ・・・こっちこそ、楽しかったから。」

シノンはアスナにかるく口元に笑みを浮かべて笑う。
この少女は、気づいているのだろうか。
私が、こんな感情を抱いているということを。
知らなくていい。知ってほしくはない。
だが、知っていてやっているのなら、容赦はしない。

リズやシリカのように、キリトを諦めきれずにいる子だっているし、リーファのように、キリトに報われない感情を抱いていた子だっている。
人の顔色を伺うために人間観察をしてきたシノンにとって、それぐらいのことはわかるのだ。
たとえ隠していようと、何らかの感情は読み取れるものなのだ。
だからこそ、アスナはシノンに見せつけているわけではないとわかるのだが。

(・・・それでも、私は)

キリトは、のんきに笑っている。
この男は、女心に疎いのだ。
戦闘では抜群のセンスを発揮するくせに、そういうところだけ鈍いのだ。
 みんなこのキリトに惚れているのだ。
その中のうちの、一人だと思われるのは悔しい。
みんなに愛されているキリトは、私にはわからないような深い深い闇を抱えていることもわかる。
それを少しでも和らげてあげようと、私も頑張っているけれど、やっぱりアスナにはかなわないのだ。
同じ時を過ごした存在というのもあるだろうが、そうではないのだ。
きっと、キリトの心を射止めるだけの、素敵な女性だから。
キリトと一緒に歩いていけるような、心の強い女性だから。
同性として嫉妬してしまうほどに、アスナは美しく強いのだ。
 だが、私だって覚悟はあるつもりだ。
キリトとともに歩む覚悟というものが。
キリトやアスナのように、ゲーム世界で一緒にいた時間は少ないかもしれないが、それだけで運命が決まってしまうのは、悔しくて、そして苦しいのだ。

ダンジョンから外へ出ると、ちょうど夕日が登っていた。
キリトの頬が夕日の光で赤く染まっていて、熟れたリンゴのようで可愛らしい。
そして、その隣に当然のように立っているアスナの頬も、同じように照らされていて、風が長い髪をふわりと舞い上がらせる様が幻想的だった。
私は、キリトとアスナから目を離し、夕日を見つめた。

「・・・綺麗ね」

ついそうやって口から出た一言は、風に乗って流れていく。
キリトの左に立っていた私の声は、キリトに届く前に掻き消えただろうか。

「――――あぁ、綺麗だ」

キリトが私の言葉に相槌を打つようにして夕日から目を逸らさずにそうこぼした。
私はキリトの顔を見る。
キラキラと黒い瞳に夕日の色が混ざって、とても綺麗だった。
私はその顔を見て、泣きたくなって、顔を背けた。

好きなのだと、どうしようもなく自覚する。
こんな感情は、今まで知らなかった。

切なくて、苦しくて、でも嫌いにはなれなくて。
好きっていう気持ちが、こんなにも痛いものなんて。
小説では、もっと甘酸っぱかったり、優しいものだったじゃない。
どうして私の恋は、こんなに苦しいのかな。

ねぇ、キリト。
私は、あんたが好きよ。大好き。
だけど、ねぇ。
その綺麗な瞳を向ける相手は、私じゃないのね。

大好きな人。
あんたに出会わなきゃよかったなんて言わないけれど。


「シノン、帰ろう」


そう言って手を差し伸べてくれるキリトの、そういうところが――――――



から好きで嫌いなの




END!
――――――――――――
10万hit記念ですよ〜〜!

プログレ4巻は私を本気で殺りにきてた。 以上。


▼2015/12/20
10万hitリクエスト2:アスキリ←シノでシノン視点の切甘








[ 9/18 ]

[*prev] [next#]
[mokuji]
[しおりを挟む]





×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -