「うー……あー……」
「なに死んでんのよアンタ」
「暇ぁー」
「そうね」
ただいま会議室で待機中。理由はもちろん相手、つまりこちらに攻めてくる敵がいつくるか分からないからいつ来てもすぐ配置につけるようにの待機。ちなみに今部屋には忍田さんと響子さんと桐絵と私しかいない。私の声が虚しく部屋に響く。これからここに待機しに来る人は増える予定なんだけどまだ来てない。暇も潰せない。
「桐絵ー」
「なに」
「トランプしよ」
「は?2人で?つまらないでしょ」
確かに2人でやるトランプなんて限られてしまって楽しくないって言われたらそうなんだけど暇すぎてそれでもいいって思うくらい。つまり何度も言うけど本当に暇。桐絵がなかなか首を縦に降ってくれなくてお願いしながらぐでーっとしていたら、悠一がどうもーと言ってやってきた。遅いと内心毒つき、やったトランプできるんじゃない?とガッツポーズ。
「真李愛が困ってる未来が見えたから早く来てみた」
「だったらもっと早く来い」
「まあ、そう言うなってもうすぐ太刀川さんもくるから」
「………」
太刀川さんでわざとらしい程にニヤニヤとこちらを見てくる悠一に鳩尾に鉄拳をお見舞いしとく。痛みに悶えている悠一をざまあと見ていたら慶がだるそーにやってきた。ぱちりと目が合いどう反応していいか分からなかったので逸らす。そしたら桐絵とバッチリ視線があってしまった。あ、バレた。
「あんたたちケンカしたしたわけ?」
「違う小南。太刀川さんが真李愛に告白したから挙動不審なだけだよ」
「「余計な事言うな」」
「…戦いに支障出さないでよ」
「それはないから安心して」
慶が当たり前のように横にしかもめっちゃ近くに椅子をわざわざ移動してきて、あまりにも近すぎたのでちょっと離れる。慶がその行動に眉を下げつつおはようとこちらの頭を撫でながら言う。おはようと今度はちゃんと目を見て返すと今度は慶が顔を逸らした。自分からしてきたくせに照れるんかい。耳赤いからバレバレだよ。
「腹立つから早くトランプ始めるわよ迅」
「そうだな」
桃色の雰囲気がもう見てるだけで恥ずかしいと桐絵に綺麗にきったトランプを4等分にしながら刺々しく言われる。元はと言えば慶が悪いと慶に責任転嫁しこのタイミングでいったからそうねと桐絵もなぜか納得してくれて矛先は慶だけになった。慶はなにも言えず。なんか……責任転嫁してごめん。
「なにやるわけ?」
「無難にババ抜きでいいんじゃないか?」
「桐絵ババあったらすぐに顔に出そう」
「出ないわよ!……多分」
「多分かよ」
慶の鋭いツッコミにあははと笑いつつ、さっき桐絵が分けてくれた自分のトランプを見る。うん、ババはない。桐絵をチラッと見るけど特に表情の変化はないから多分ババはない。次に悠一……ニヤニヤ。通常運転だった。慶は……あ、こいつババ持ってるな。あきらかに様子がおかしい。悠一もあきらかに違う慶の様子に気づいたよう。
「あれ?太刀川さんババ当たっちゃった?」
「ち、違う」
「あきらかに挙動不審。じゃんけんしよー」
じゃんけんの結果。慶から反時計回り……つまり、慶が私のカードを引いて私が悠一のカードを引いて悠一が桐絵のカードを引いて桐絵が慶のカードを引くという順番になった。つまり現時点でババを持っていると予想されている慶の手札を天然女王桐絵が引くから面白い戦いが見れそうな予感。桐絵に渡ったらきっと桐絵の負けが確定かもしれない。悠一がわざわざババを引くわけないし……面白がって引く可能性もあるからなんとも言えないか。
「始めるわよ」
「んじゃ、慶から」
ババ抜きスタート。順番が回って桐絵が慶のカードを引く番。無言で2人が睨み合ってお互いの様子を伺う。それを傍観する立場である私と悠一は苦笑い。2人とも馬鹿だからこういうのでも真剣勝負。やっと桐絵がカードを引く。桐絵の顔がみるみるうちに曇る。あ、ババ引いたなと瞬時に悟る。それから決着は早かった。悠一はババは引かないスタイルで行くみたいで桐絵が頑張ってババを引かせようとするけど努力虚しく桐絵がずっとババを持ったまま終わった。それじゃあ桐絵が可哀想だという話になって今度は表情に出やすくてもなんとかなるかもしれない大富豪をやる事にした。
「……敵が来る」
「おっやっと来たか」
「やっと開放される……」
何回目かのトランプを途中ではあったけども敵が来てしまったのでしょうがないので終了させる。でも最後に慶を大貧民にできたのはよかったかな!桐絵も頑張って大富豪はまではいけなかったけどなかなか検討していたしね。さて、敵さんはどういう行動をとるのかな。
「忍田さん!敵が来ます!パターンは一応「A」で!」
「……わかった!予定通り人員を配置する!」
「パターン「A」ってことは本部基地防衛だな。OKOK」
「……小南
太刀川さんについて行け」
「太刀川に?なんで?」
悠一が慶がぶった斬られる未来が見えたと話す。あんなんでもうちの忍田さんを除く現ノーマルトリガー最強である攻撃手1位で総合も1位の慶がやられるということは相当な手練がいると考えられる。私も桐絵もそんなやつがこっちに来るなんて思ってもいなかったから驚いた顔で悠一を見ていた。
「今回の相手……思ったより厄介かもしれない」
慶がぶった斬られる……か。そう言われてみれば私あんまり慶が他の人と戦ってるのを見たことがない。だからもちろんぶった斬られるのも。うーんなんか嫌だなあ……自分がぶった斬るぶんにはいいけど他人…しかも知らない近界民にやられるのは嫌な気持ちになる。私は今回の戦いで特に命令は出ていなくて緊急事態に対応できるように待機している。だから……
「……桐絵」
「1ヶ月奢りなさい」
「え?」
「代わって欲しいんでしょ?アンタの考えることくらいすぐ分かるわよ」
「ありがとう!桐絵大好き!」
「なっ…!私はアンタなんか好きじゃないわよ!」
「知ってる!桐絵も私の事大好きってこと」
そんな訳ないわよ!と顔を真っ赤にさせて必死に否定する姿は同じ女の子である私からしても可愛らしい。学校では猫を被っているらしいけど私は素の桐絵の方が可愛いと思う。いや、絶対可愛い。そしてたまには先輩後輩みたいなやり取りもしてみたいとふと思った。
「桐絵いってきまーす」
「負けるんじゃないわよ」
「うん!」
慶、私、悠一が桐絵と忍田さんに見送られながら待機室から出る。悠一は陽動や足止めをしたり最適な未来分岐への道へ向かわせるために忙しい。だから途中で悠一と別れて私と慶だけになった。あんな事があったから緊張してるかと思ったけどそうでもなく普通。それはきっと私の気持ちは全く変わっていないから変な気を使っていないからかもね。
「……なんで慶が緊張してるわけ?」
「そりゃするだろ……」
「約束したでしょ?戦いに集中してよ」
「随分真李愛は普通だな」
不思議そうにこちらを見てくる慶にふふっと笑って真っ直ぐに見つめる。そして、歩いていた足を止める。慶もつられて足を止める。
「ちょっとこの戦いが楽しみってのと、慶と遊んだり戦ったりするのも好きだから…かな」
「それって……」
「ほら行くよ!2人が待ってる」
すっごい恥ずかしい事を言ってるのは慶の反応を見た時。慶の言葉の続きを聞きたくなくて遮るように喋り小走りで少しの距離を走る。顔がさっきの桐絵程ではないだろうけど真っ赤になってる気がして見せたくなかったから。慶がずっとこっちに話しかけてくるけどそれを全て無視して集合場所へと着く。既にそこには風間さんと鋼の姿。
「お待たせしました」
「おい真李愛!」
「うるさい!その話は後!」
「…何かあったのか?」
「なんでもないです」
なんでもないわけないだろと慶が後ろで文句を言っているけど風間さんがうるさいぞ太刀川と怒ってくれたから大人しく黙ってくれた。その慶に約束守らないと返事しないからねと釘をさすと本当に黙った。
「太刀川さんと何話したんだ…?」
「あー……今は言えないけどそのうちね」
「…何かあるのか?」
「まあ、ね」
今この場で言う事でもないので鋼の問いかけに曖昧に答える。鋼はこう見えて気が利くので今は言いたくないんだろうとちゃんと理解してくれてそうかだけを言ってそれからこの件に関しては話はしなくなった。
「それにしても攻撃手上位が見事に揃ってるよね……これは手強い」
「元上位もいるしな」
「元だけどね」
「今日はそれで行くのだろう?なら攻撃手も同然だ。元攻撃手2位で今は総合5位だろう。お前も手強いやつの1人だ」
「風間さん……」
風間さんがそんな事を言うなんて……!滅多にいただけない風間さんからのお褒めの言葉が嬉しくてついついニヤニヤしながら返事をすると気持ち悪いぞ真李愛と鋼に言われて傷ついた。まさか鋼に気持ち悪いって言われるとは思わなくて心が抉られたみたい。
「……来るぞ二人だ。遠征艇ドッグ用エレベーターを降下中」
おっと、鋼の言葉に傷ついてる場合じゃない。気持ちを切り替えて一気に戦闘モードへと切り替える。このすっごい傷心中でも切り替えが早いのが私の長所だったりする。
「二人だけですか?」
「門で犬型のトリオン兵を呼ぶそうだ」
つまり、私達が普段相手にしているトリオン兵より小型ってことだよね。小回りとか利きそうだし人型と連携すると厄介そうだなー。まあ、負ける気はしないしワクワクしてるけどね。
「前の新型より手強いってことはないだろ。こっちに予知があるからとはいえこの面子に突っ込んでくる相手がかわいそうだな」
「何のんきなこと言ってるの……悠一の予知だと慶真っ二つにされるらしいよ」
「へぇそいつは俄然楽しみになってきた。だから小南じゃなくてお前が来たのか?」
「……さあ?」
さて、敵さんのおでましーっと。面白いトリガーを持ってるなあちらさん。背中に装備するタイプのトリガーそれに二人のうち一人はとんでもないくらい強そうな風格……どんな攻撃をしてくるのかワクワクして唇を舐める。これは、慶のために来たけどそれとは別にこっちに来て良かったかもしれない。凄くワクワクする。
「目標確認。壁は鬼怒田さんが分厚く補強済み。壊しちゃダメなものはしまってある地下だから音もそんなに気にしなくていい。上と違ってメテオラも解禁思いっきりやっていいそうだ」
「了解」
「はーい。楽しくなってきた」
敵さん、どうやらこちら全員を倒す必要はないとか考えてそうだなーま、確かにあっちの目的は遠征艇を壊すことだから無駄に闘って作戦失敗より不意をついて破壊した方がリスクは少ない。けど、こっちに目的は筒抜け。そう簡単に遠征艇は壊させるわけにはいかないよねー壊されたら当分遠征はいけない。つまり修たち玉狛第二が遠征にいける時も遅くなってしまう。それだけはダメ。
「あんたらのお目当てはこの中だ。遠征艇をぶっ壊したきゃその前におれたち3人をぶった斬らなきゃなんないか」
お、敵が僅かに見逃したら分からない程度だけど反応したな。なんで知ってるってね。それが命取り。考えている間にカメレオンで姿を見えなくしていた風間さんが一番風格がある人型の左腕を切り落とした。これにさらに敵さんびっくり。
「おっと悪い。3人じゃなくて4人だった」
「わざとでしょ」
不意をつかれて敵もどうやら臨戦態勢に入ったので注意して様子を伺う。風格がある人……額に傷があるから傷風格と呼ぼう!傷風格がトリガーを発動させる。そのトリガーはもう1人のトリガーと同じ背中に装備するタイプのトリガーで、なんだか……
「背中から武器が……」
「レイジさんの全武装みたいだね……形もカニみたいだし」
「……見えるが今そのタイミングで言われると戦いずらい。笑ってしまいそうになるだろ」
「……ごめん鋼」
だって見えてしまったからには言いたくなっちゃったんだから許して。どうやら鋼以外には聞こえてないみたいなので安心した傷風格さんに違う意味で緊急脱出されそうになったかもしれなかったよ。
「なるほど……こいつはよく斬れそうだ」
「カニだもんね」
「真李愛……本当にやめろ」
慶の言葉にさり気なく合いの手。やっぱりこれも鋼にしか聞こえてなくていつもだけどさらに真顔になって突っ込まれて怖かったからもう言わないと思う。傷風格が背中から何かを取り出す。それを風間さんに斬られた左腕に近づけるとその左腕から銃形のトリガーがくっつくように現れた。
「ありゃあ……手まで生えちゃったよ風間さん」
「次からは脚を狙う」
「悪いがあまりおしゃべりもしてられんのでな」
「「戦闘開始だ」」
高揚と緊張