「……あれ?二宮さん、何しに来たんですか?」
ある日のこと。自室に戻ろうかなーとブラブラしていたら突然二宮さんがやってきた。本部でもめったに見ないのにまさか自分の基地で会えるなんて思ってもみなかった。
「…真李愛。お前に会いに」
「え」
え、に、二宮さんがそんな事言うなんて。真剣な表情でこちらをまっすぐ見てくるので思わずドキリした。くそ、イケメンめ…!
「冗談だ」
「!?」
「で、三雲と雨取はいるか」
「……千佳はいますが修なら今本部に行ってるからちょっと時間ありますんで、どうぞ」
あの二宮さんが冗談?ちょっとまって、さっきから予想外の行動ばかりされて頭が回らないんですけど。と、とりあえず案内だ。
「先に千佳呼んでくるんで待っててください」
「ああ」
居間に戻ると千佳と栞がいて2人に二宮さんが来たことを説明して私は千佳と一緒に二宮さんが待っている部屋に向かった。
「二宮さん、千佳連れてきましたよー」
「……どうも」
「ああ」
栞が行く前に渡してくれたお茶を置きながら考える。これから戦おうとしてる部隊にわざわざ基地にまで赴いて一体何の用か気になるところ。それに、可愛い後輩を初対面の人と2人っきりなんてさせたくないな。
「二宮さん、2人きりじゃ千佳も気まずいだろうし私がいても大丈夫ですか?」
「俺は構わない」
「真李愛先輩ありがとうございます」
「いいのいいの!じゃあ隣失礼しまーす」
迷いもなく二宮さんの隣に腰掛けると僅かだけどびっくりした顔でこちらを見てくる二宮さんに不思議に思って首を傾げて二宮さんを、見た。
「なんで俺の隣に座る」
「え?だってこれから修たち来るんですから座るなら二宮さんの隣しかないでしょ?」
「……三雲が来ても居座るつもりか」
「本人達がいいならそのつもりです」
笑顔でさも当然のように返したら諦めたのかさっき出したお茶に口をつけた。その姿も様になるのはさすが。風間さんも素敵だけどやっぱり歳相応は二宮さんだなー風間さんごめんない!でも風間さんの方が好きですから!と、心の中で風間さんに謝っていたら扉が開いた。
「……!修くん」
「二宮隊の二宮だ。突っ立ってないで座れよ三雲」
「にのみや隊……?」
「長居するつもりはない手短に用件を言う。雨取麟児……この名前を知ってるな?」
二宮さんが出した青年の名前。思った以上にこれ、私が聞いていい話じゃないよね?
「私退室しよっか?」
「あ、いいえ…大丈夫です…」
そうと短く返事して私も持ってきたお茶に口をつける。それでも邪魔そうだから、口を開かないでおこう。雨取って名字は少ないからこの写真の青年は確実に千佳のお兄さんかなにかかな。
「……わたしの……兄です」
「ぼくは……家庭教師をしてもらってました。麟児さんが何か……?」
「この女に見覚えは?」
私はその写真の人物に見覚えがあった。なんせ、その写真の女の子はあまり話はしなかったけど私の友人であった人だから。
「いえ……知らない人です」
「ぼくも覚えがありません」
「本当だろうな?よく見て思い出せよ。作り笑いが顔に張りついた冴えない女だ」
容赦ないなー二宮さん。私よりも二宮さんの方が彼女との関わりが多かった子だったはずなのに。
「この人は誰なんですか……?」
「重要規律違反の容疑者だ。トリガーを民間人に横流ししてそのままそいつらと一緒に行方を晦ました。門を抜けて向こう側へ行ったと上層部は結論付けている」
A級部隊に所属できたのだから頑張れば遠征に行けたというのになぜ民間人と一緒にと思う事はある。もう、彼女には会えないのかな?
「……!?民間人と一緒に……!?」
「この女のトリガーの反応が門の中に消えたとき一緒について行ったトリガー反応が三人分ある。だがその三人はボーダーの人間じゃない。その日この女以外に消えた隊員はいないからな。つまりトリオン能力を持つ外部の「協力者」が少なくとも三人この女と同行したことになる」
なんで、私は未来ちゃんの変化に気づくことが出来なかったのか、困った時に相談できるような仲のいい友達になればよかったと凄く後悔したこともあったなー。
「民間人にトリガーを流すのは記憶封印措置も適用になる最高レベルの違反行為だ。本部も即座に違反者捕縛の追っ手を出したがそいつらはすでに消えた後だった。俺はこの女の「協力者」について調べている。雨取麟児はその候補の一人だ」
「「協力者」…………」
なるほどね。だからわざわざ玉狛まで出向いたってわけか。
「もしチカの兄さんがその「協力者」だったらどうするつもりなの?」
「……別にどうもしない。今更捕まえようもないからな。上層部もこの件は表沙汰にしていない。下手に突いて拡散するほうがデメリットがあると考えている」
あの3人だったらそんな事考えるだろうなーま、確かにその通りなんだけど、揉み消してる感じが好きじゃないな。
「……じゃあどうして二宮さんはこの件を……?」
「この女は二宮隊狙撃手鳩原未来。当時の俺の部下だ……本部は鳩原が主犯だと考えてるが俺に言わせればこの馬鹿がそんな大層な事を計画できるわけがない。馬鹿を唆した黒幕が必ずいる。俺はそれが誰なのか知りたいだけだ」
ただたんに自分の部隊の不始末を解決したいのか、未来ちゃんのためを思ってるのかは私には分からないけど、未来ちゃんのためだといいなーと勝手に思ってる。
「……それはきっと兄だと思います」
「……なぜそう思う?」
「兄にならそういうことができます」
千佳のお兄さんは頭が回るんだね。さすが、修の家庭教師ってことか。二宮さんは反応してるけど、まだ不服そう。
「……それじゃ根拠にならない。もっと具体的な話をしろ」
「……ぼくは麟児さんから少しだけその計画を聞きました。麟児さんはボーダーのトリガーを持ってて……「協力者」と一緒に門の向こうを調べに行くって……」
「それを証明する物は?」
「物はないです。けど……麟児さんたちが目星をつけた門の発生予測地点は大体覚えてます。鳩原さんが消えた地点と一致するはずです」
「……なるほどな」
ちょっと二宮さんもいい情報を得て満足そう。だけど、修は言いたいことがあるみたい。そんな顔してる。
「……ただ「唆した」っていうのは違うと思います。麟児さんは協力者たちと「取引をした」って言ってました。つまりその……鳩原さんにもなにか目的があって利害が一致したから手を組んだんじゃないでしょうか」
「……情報感謝する。邪魔したな」
二宮さんが立ち上がったので、一応客人なのでお見送りをしようと私も慌てて立ち上がる。
「待ってください!その……鳩原さんや他の「協力者」の調査はどこまで進んでるんですか!?計画の詳しい内容とか……」
「おまえたちに話しても仕方ない」
「僕達は……麟児さんを捜すのを目的の一つにして遠征部隊を目指してます。麟児さんに繋がる情報は少しでもほしい……!」
そうなんだ。連れていかれた友達とかを助けたいとは聞いていたけども、そっか。お兄さんもか……お兄さんがいるなんてさっきしったしね。叶うといいな。だけど、二宮さんの表情は険しい。
「情報を聞いてどうする?」
「え……」
「昨日のおまえたちの試合を見た。おまえたちのレベルで遠征部隊に選ばれることはない。使い道のない情報を手に入れてどうする気だ?鳩原の真似をして向こう側に行くつもりか?……もし本気で雨取麟児を捜したいならこいつをどこかのA級部隊に入れるんだな。まともな手順で近界に行く気ならそれが一番ましな選択だ」
二宮さん本当に容赦ないなー。遊真だけで助けにいっても意味無いじゃないか。3人で行くから意味があるのにー。それに、この3人がそう簡単に諦めるはずがない。
「……ぼくたちが、ぼくたちが遠征部隊に選ばれたら教えてもらえますか?その情報を」
「…………選ばれてから言え」
「あ、二宮さん見送ってくるね」
さっと消えていった二宮さんの後を慌てて追う。いきなり帰らないで……!
「二宮さん」
「……お前も本気であいつらが遠征部隊に選ばれると思っているのか?」
「もちろん!」
大きく頷くと、不服そうな二宮さんの顔が見えた。なにがそんなに不服なんだろうねー?
「それに私達、玉狛第一が教えてる弟子なんですから、今はまだまだでもそのうち……化けて二宮さんたち負かしますよ?」
「どうだかな」
「ふふっ今度のランク戦はお手柔らかに」
片手をあげて二宮さんは玉狛から出ていく。その姿を確認したら、私はさっきの部屋へと戻ると、3人が部屋にまだいたので私も座った。
「千佳、お兄さんいたんだね」
「あ、はい…」
「今日はみんなの目的ちゃんと知ったし、みんなのだけ知ってるって不公平かなーって思うから私も目的、じゃないけど私の話をしようか。ちょっと付き合ってね?」
首を少し傾げるように3人を見ると頷いたので了承ととって思い出すように天井を見上げた。
「遊真には黙っていたけど……私のお母さんは遊真のお父さんと同じボーダー創立時のメンバーなんだよ」
「!そうなの?」
「と、言っても私は遊真のお父さんの事は知らなかったから役には立てないと思って話さなかったんだ。ごめんね?」
「気にしてないよ」
片手をあげて3の口の遊真。うん、本当に気にしてない時の表情だ。私は話を続けた。
「私のお母さんは創立時メンバーでお父さんはほぼ創立時からいるエンジニア。だから、そういう意味では私も関わりだけでいったら古参なのかもしれないね。ただ、私が隊員として入ったのは2、3年くらい前」
「あの……どういう経歴で…?」
「両親が亡くなったから、かな!あ、別にそんな暗い話でもないから!」
私は秀次とかと違って納得出来ないというかスッキリしない殺され方ではないからかな?それに、お母さんの遺言や両親の死がなければもしかしたら修たちとは違う出会い方だったかもしれない。だから、感謝してるくらいだしね。
「……両親とも近界民に殺されたの」
「!」
「ボーダー創設を支えた人がなぜ亡くなったか……」
ぽつぽつ、と私は静かに両親が亡くなった時の事を
話し始めた。
3年くらい前の話。私はまだごく普通の中学生だった。今日はテスト期間で早く学校が終わり、暇だったので両親の手伝いをしようと向っていた。
「えっと、今日は……お父さんが市街地で調査、お母さんがその手伝い……だったよね。ちょうどお昼だしお弁当持っていこうかな」
早足に帰宅し、準備をすませて出発した。本来なら今日はお父さんだけだったのだが急にお母さんも同行することになった。理由は、治る見込みはあるが重い病気を患っており安静にしろとお医者さんに言われてしまい仕事ができず暇ならしい。だからトリガーも没収されてただの人間、いや母であり妻なわけ。
「……嫌な予感がしてきたから急ごう」
私は急に嫌な予感がしてきて小走りで向かっていた。もうすぐ着くというところで……私の目にここにいるはずのないものが見えた。両親がいるであろう場所辺りに近界民が見えたのだ。お母さんがトリガーを取り上げられてるので嫌な予感、恐怖でしかなかった。必死に足を動かして向かうと、そこには――――――血を流して倒れている両親だった。
「お母さん!お父さん!」
「がっ、真李愛……危ない!」
「!」
駆け寄ろうとした私の背後に近界民。振り向いて姿を確認するが、恐怖で足が動かずその場で立ち尽くしていた。
「真李愛…!」
「真李愛!」
もう、だめだ。と思いっきり目を瞑って死を覚悟した。だけど、時間が経てど何も起きない。恐る恐る目を開けると、見覚えがある大きな背中が目の前にあった。
「慶……?」
「真李愛」
振り返った慶に抱きしめられた。力強く抱きしめられ、苦しいけどそれよりも私は慶が守ってくるたことが嬉しかった。また生きて慶に会えるのが嬉しかった。
「そうだ、お父さんお母さん!」
慶から離れて2人が倒れている場所へと急ぐ。出血量が多くもう生きていられないというのは医学の知識がなくても明らかな程だった。
「お母さん…お父さん…!」
「良かった……真李愛だけ……でも…生きれて……」
「悪いな……真李愛の……そばにもう……いれそうに…ない…」
「なんで…2人が謝るの……」
涙が止まることなく溢れ出てくる。背後に慶が来て何も言わずに頭を撫でてくれているが、それが余計に涙を溢れさせる。
「慶くん……真李愛を……お願い…ね…」
「泣かしたらただじゃ……おかないからな……」
「分かってます」
「真李愛」
震える手で私の顔を優しく撫でた。手は冷たいのになぜか温かい。
「私達の復讐なんて…………やめなさい……私達はそんな事望んでない……」
「お前が笑ってくれたら……俺達は……それで……」
「何にも残してあげれないけど……せめて……もの……」
「お父さん!?お母さん!」
私が呼んでももうお父さんは返事をしなくなった。お母さんは光を帯び、みるみるうちにお母さんは黒トリガーへと姿を変えた。私は、母だった黒トリガーを抱いてしばらく声を出して泣いた。悲しさだけじゃない。悔しさ、2人を守れなかった悔しさが今の私を支配した。でも、ずっと泣いてるわけには行かなかった。
「……慶」
「もう、大丈夫なのか?」
「うん。ありがとう……慶、城戸さんの所に行かせて………ボーダーに入るよ。せっかく残してくれたこれを無駄に出来ない」
今度は絶対に大切な人をこのトリガーで守ってみせる。その為にはボーダーに入らなきゃ始まらない。「と、いうわけ!」
「ユイゴンだから、フクシュウはしないの?」
「それもあるけど……私の仇はあの時やられたトリオン兵。どの国が仕掛けたとか、関係ないかな」
だからあの時から、私にとって慶はすくってくれた王子様、なんて思ったりもしてる。本人には恥ずかしくて言えないけどね。
「さ、もういい時間だしご飯食べに行こうか!」
「はい」
リビングに着くと今日の当番はレイジさん。レイジさんがご飯を用意して待っていたのでご飯をみんなで食べていたら、話題はさっきの二宮さんの話になった。
「ニノミヤさん昔の仲間のことぼろくそに言ってたな〜やっぱ裏切られたのがイヤなのかね」
「二宮隊は未来ちゃんが「密航」した責任を取ってB級に降格させられたからね」
「そうなんですか……!?」
だから、実力はA級となんら変わりのない。だから今度の試合はみんなにとっていい経験が得られると思うんだよねー。
「表向きには鳩原は単なる隊務規定違反でクビってことになってる」
「レイジさんと真李愛先輩、ハトハラさんのことくわしいね」
「俺も鳩原も東さんが師匠だからな。妹弟子だ」
「私はそれなりに話したことあるし」
本当にちょっとだけどねー。なかなかお目にかかれないってのもあったんだけど。だから、人伝いに聞いた事とかばっかりだけど、友達だとは私は思ってる。
「上層部以外だと俺と東さんと八城と二宮隊。あとは追手だった風間隊だけがこの件を知ってる。他所でしゃべるなよ。鳩原のやったことが広まれば同じような無茶を考える人間が出てくるからな」
「……はい!」
さっき二宮さんも釘を指したし、3人なら大丈夫だろうとは思っている。
「でも……今日の話は……初めて見つかった兄さんの行き先の手がかりだよね」
「ああ。いろいろ現実味を帯びてきた」
「あとはおれたちが遠征部隊に選ばれるだけだな。ニノミヤさんが情報くれるかどうかはともかく」
「そうだね」
この3人を見てると、なんだか自分ももっと頑張らなきゃなと思ってしまう。すごく戦いたくてうずうずしている。明日行こうと計画を立てて3人の話に聞き耳を立て食事をした。
みんなの話、私の話