「B級ランク戦新シーズン!二日目・夜の部がまもなく始まります!」
というわけで、玉狛第二にとっては二回目で修にとってはデビュー戦となるこの日。陽介たちと一緒に観戦に来ていた。といっても私はたまたま会ったから合流しただけなんだけど。
「実況は本日もスケジュールがうまいこと空いたわたくし竹富桜子!解説席には先日の大規模侵攻で一級戦功をあげられた……東隊の東隊長と草壁隊緑川くんにお越し頂いています!」
「どうぞよろしく」
「どもっす」
「今回の注目はなんと言っても前回完全試合で8点をあげた玉狛第二!」
「あ、双葉ちゃん!」
「お、こっちこいよ」
「私の隣おいでー」
「……お邪魔します」
相変わらず双葉ちゃんには警戒されている……私なにかしたっけ?記憶にないんだけど……可愛くてたまらないからすごく可愛がりたいんだけどな。
「さて東さん一試合で8点というのはあまりお目にかかれませんが……」
「いやすごいですね。それだけ玉狛第二が新人離れしてるってことでしょう」
「遊真先輩は強いよ。あっという間にB級上がったし」
「緑川くんは玉狛の空閑隊員と個人で戦ったというウワサが……」
「うわ、その話ここでする?8-2で負けました!ボッコボコでした!」
たしか、あの時は会議中で暇だったから見てたんだよね?モニターで!さすが桐絵にしごかれてるだけあるし、もともと駿わかりやすいってのもあったから楽々勝てたんだよね。遊真に遊ばれてたっけ?
「駿が負けたんですか?8-2で?」
「いい勝負だったぜ」
「桐絵が師匠だし私もたまに相手してるからね」
「……」
「どうしたの?」
「……真李愛先輩が人に教えてるの想像できないです」
「確かに弟子をとるってのはしたことないけど面倒見るのは好きだよ?今度どう?」
「……お願いします」
「あ、意外。私のこと苦手だと思ってたんだけど」
「苦手です。けど、嫌いではないです」
「喜んでいいのか微妙」
「喜んでおけばいいんじゃないすか?」
苦手だけど嫌いではない……好きでもない?うん?でも、ツンデレだと思って接すればいける気がする。嫌われないようにしよっと。
「……さあステージが決定されました!玉狛第二が選んだステージは……「市街地C」!坂道と高低差のある住宅地ですね!しかしこれは狙撃手有利なステージに見えますが?」
「狙撃手有利……ですね」
「なんでここを選んだと思うっすか?」
「え?うんそうだなー今のところわざとここを選んだ……なにか意図、作戦があるからとしか言えないかも。しっかり勉強してきたからなにも考えずってことはありえない」
修がどんな作戦でこのマップを選んだのか。それは上手くいくのか見届けようか。さて、全チームの転送が完了した。つまり試合開始だ。
「狙撃手四人がバックワームを起動!レーダー上から姿を消した!狙撃手三人の荒船隊やはりまっすぐ高台を目指します!半崎隊員がいい位置に転送されたか!諏訪隊もそれを追う!玉狛第二も……」
「……追わないで合流優先か」
「転送直後は一番無防備な時間帯ですからね合流するのはありです」
「笹森隊員間一髪!」
「穂刈の牽制ですね。かわされましたが諏訪隊は進みづらくなった。いい仕事です」
「この隙に荒船隊長も脇をすり抜けて登っていく!荒船隊が完全に上を取った!」
そして、千佳の大砲が襲う。荒船隊がすかさず三人がかりで、狙撃するが修と遊真が守る。さらに反撃とばかりに千佳が狙撃する。
「この威力!もはや砲撃!玉狛第二意外にも撃ち合いを挑んだ!東隊長この展開はどう思われますか!?」
「玉狛第二の分が悪いですね。威力はあっても下からでは荒船隊の動きが見えない。そのうえ撃つたびに自分の居場所がばれる。逆に上にいる荒船隊からは的がよく見える。盾を何度張っても防御が崩れるのは時間の問題です」
「東隊長の解説の通り玉狛第二が一方的にダメージを受けていく!本職相手に狙撃手勝負は無謀だったか!?」
「……いや端から勝つ気はないようです」
「……え!?」
玉狛第二に夢中になっていた哲治が諏訪さんの存在に気づかずに攻撃されたが、ぎりぎりでかわした。だんだんと分かってきた修の狙い。2対1を狙っていたということ。2対1とは、玉狛第二と諏訪隊対荒船隊ということ。
「長距離で荒船隊に勝てないのは織り込み済み。ステージ選択から敢えて状況を荒船隊有利に偏らせることで諏訪隊と玉狛第二の利害を一致させた。玉狛第二は地形戦をよく練ってますね」
「東さんに褒められた」
「自分のことのようですね」
「可愛い後輩だからねー嬉しいよ。それに、頑張ってる姿を近くで見てるから……その努力が報われててよかったねって」
「……意外と優しいですね」
「今更?だから仲良くしてね双葉ちゃん」
「……努力します」
「あはは……道のり長いなー」
さすがに苦笑い。いけると思ったんだけど。さーて試合のほうはどうなったかな?
「荒船隊有利から一転!玉狛の砲撃を隠れ蓑にして諏訪隊が獲物に食らいついた!」
「狙撃手が撃ちたくなるような動きを修たちがしていたのが大きいかもね」
「これは完全に銃手の距離だ!荒船隊長さすがに苦しいか!」
「いやこれは釣りですね」
諏訪さんの顔面に狙撃が命中した。これはリタイアかと思ったけど、煙が晴れると諏訪さんの顔面の前には盾が。つまり、ノーダメージ。
「あ―――っと!?ヘッドショットをピンポイントで防御!」
「半崎の狙撃の正確さが仇になりましたね」
「なるほど!通常よほどのトリオン差がない限り盾単品で狙撃は防げませんが狙いを読んで盾を集中すれば防御が可能です……しかし一点読みが外れれば死んでいた!諏訪隊長なんという胆力!」
だけど、次は左脚を狙撃されて飛ばされる。今度は守れなかったけど、諏訪さんのことだからあまり気にしてはいないだろう。
「でも、諏訪隊ばっかり見ていると……うちの後輩のことを忘れるよ?」
「半崎隊員緊急脱出!先制点は諏訪隊!そして依然堤隊員の間合い!ここで2点目が動くか!?」
「!あの動き……」
「おおお!?今の動きはグラスホッパー……!?前回は使っていなかった気がしますが……!?」
「オレが教えました。昨日」
「昨日!?なんと普通に覚えたてだった!」
どうりで知らないわけだ。私昨日遊真と会ってないし。遊真の機動力の高さにグラスホッパーをプラスしたら鬼に金棒だな。私もだけど。
「あのバカ……ライバルを強くしてどうするの……」
「オレはああいうの好きだぜ」
「駿より私の方がグラスホッパー使えるし……教えたかった駿ずるい」
「え、そっち?」
私もサイドエフェクトのおかげで機動力高いからね!自分でいうのもあれだけど。駿も割と高い方ではあるけどね、犬みたいだし。ちょっと悔しい。
「弾の出所がわかっていればトリオン体の反応速度次第で防御も可能!位置を知られては苦しいぞ狙撃手!」
「まあ普通はそうですね……ただ荒船に限って言えばあいつは元攻撃手ですからね」
「荒船隊長が弧月抜刀!空閑隊員と剣比べか!?」
「荒船は本職の攻撃手じゃありませんが……ここで空閑を止めたことで穂刈の援護射撃が効くようになりますよ」
哲治はなんせレイジさんにつぐ完璧万能手を目指しているからね。狙撃手としての実力も攻撃手としての実力もそれなりにある。厄介な相手だよー?遊真。
「徐々に形勢が傾いてきました!ここまでのスコアは……玉狛第二1得点ノーアウト!諏訪隊1得点1アウト!そして荒船隊得点なし1アウト!狙撃手有利のこのMAPで意外にも狙撃手が追い詰められる荒船隊には苦しい展開!ここで反撃に転じたのは……剣も狙撃もマスタークラス!武闘派狙撃手荒船隊長!」
武闘派狙撃手ってなんか響きかっこいいよね。でも勇も見た目がヤンキーだからあるいみ武闘派狙撃手っぽいと思ったのは私だけ?
「たしか私がB級に上がった頃には荒船隊はすでに狙撃手3人部隊だったと記憶していますが……」
「荒船さんは8ヶ月前まではバリバリの攻撃手で順位もかなりよかったよ。今もたまに弧月でランク戦やってるし荒船さんが攻撃手やめたときはみんな「なんで?」って言ってたくらい」
「色々あったみたいだよ」
「知ってるんですか?」
「ちょっとね」
これ、他人に話していいのか分からないから黙っておくけど、でも仲直りしたのかな?仲直りしてるといいんだけど。
「バックワームを目隠しに使って攻撃!?」
「それっぽいことしてますね。ですが実際荒船がバックワームを解除しないのは諏訪に削られた足を隠すためでしょう。バレればそこを攻められます」
「なるほど……!空閑隊員が初めて太刀を受けた!穂刈隊員の援護狙撃が機能している!スコーピオンと弧月では耐久力に差があります!打ち合えば荒船隊長が有利!」
ん、日佐人が篤をマークした。ということは諏訪さんが遊真のところに来るかもしれないな。そのまま日佐人と篤が離れてくれたらやりやすいんだけど……諏訪さんいるしなー厄介。
「荒船と空閑のエース対決を中心にしておそらくここで決まります」
「両方の強さを知る緑川くんから見てエース対決はどちらに分があると思いますか?」
「そりゃ遊真先輩だね。荒船さんは今は狙撃手がメインだし遊真先輩が勝つと思う」
「玉狛の三雲が地味にいい動きをしてますね。荒船隊の二人を狙えるいい距離にいつの間にか陣取ってます。バックワームを敢えて使わずレーダーに映っているので荒船隊は三雲の攻撃にも意識を割かざるをえない。ただそこにいるだけで荒船と穂刈を心理的に挟み撃ちしている。いい射程の使い方ですね」
うん、初めてのランク戦ちゃんと隊長として隊員をサポートできてるね。東さんにも褒められてるしさすが京介と(たまに私)が教えてるだけある!
「穂刈隊員捨て身で狙撃!?」
「まだだよ」
「「上手い!」」
篤に狙撃されてもグラスホッパーをフェイントに利用して哲治を倒した!見事な咄嗟の判断に駿も東さんも声を揃えた。あ、諏訪さんが遊真のところにやってきた。と思ったらカメレオンで日佐人が近づき遊真に羽交い締め!諏訪さんにやられるか?
「お!ナイス千佳!」
千佳の大砲によって日佐人が緊急脱出。だけどその隙を逃さない哲治が千佳を狙撃し千佳も緊急脱出。これで諏訪隊と荒船隊が一人ずつになったけど哲治のトリオン漏れが激しいからそう長くは持たないだろうけど。あ、諏訪さんが遊真の動きを見きったね!でも、玉狛にはまだいる。
「勝負ありですね。玉狛の勝ちです」
「ここで決着!最終スコア6対2対1!諏訪隊長、荒船隊長が緊急脱出!玉狛第二の勝利です!デビュー2戦目も6得点!玉狛第二の勢いは止まらない!なお荒船隊長はトリオン漏出による緊急脱出ですがそれに至るダメージを与えたのは空閑隊員なので空閑隊員の得点としてカウントされます!」
ふー勝つとは信じてたけど緊張したーっ!自分のことより緊張してるかも!でも、順調そうで何よりなにより!
「……さて振り返ってみてこの試合いかがだったでしょうか?」
「そうですね。終始玉狛が作戦勝ちしていたという印象ですね。相手の得意な陣形を崩すエースの空閑をうまく当てる。この二つを徹底して実行できていたことが6点という結果につながったと思います」
「真李愛先輩」
「なーに?」
「玉狛の作戦ってそんなに意味があったんですか?単にクガって人が強かっただけに見えたんですけど」
「どうなの?先輩」
「おれにふるんですか?真李愛先輩の方が身近じゃないですか」
「もー分かったよ」
章平にも出番をあげようとおもったのにー本人が嫌なら私がやりますよ。あんまり得意じゃないんだけど。
「双葉ちゃんの言うとおり遊真はたしかに強いけど普通のMAPで五分の条件だったら玉狛が荒船隊を崩すのは難しいと思うよ。さっき東さんが解説で言っていたけど遠距離戦じゃ経験の差が歴然だからね!玉狛もそれをわかってたから極端な地形を選んで勝ち筋を限定した。諏訪隊を巻き込んで「高台の有利を取れるかどうかの勝負」に引き込んだわけ」
「……荒船隊と諏訪隊を自分たちのルールに乗せたってことですか?」
「うん!その通り!「地形を使って相手を動かす」これは地形戦の基本であり真髄なの「動かされた側」の2チームはずっと対応に追われて「動かした側」の玉狛は最後まで「次の一手」があった。その余裕があったから結果的に点差が開いたわけ」
「なるほど……ありがとうございます」
「どういたしましてー」
「えー……真李愛に全部言われたので話すことがなくなっちゃいました」
「わ、すみません」
とはいえ、双葉ちゃんのありがとうございますは頂いたからよかった。はじめて双葉ちゃんにちゃんとしたありがとうをもらった気がする。
「……さて本日の試合が全て終了!暫定順位が更新されます!玉狛第二が8位に上昇!早くもB級中位トップに立った!次回の対戦の組み合わせも出ました!注目の玉狛第二の次の相手は……暫定13位那須隊と暫定9位鈴鳴第一です!」
「これは……面白い組み合わせですね。鈴鳴第一と那須隊は前衛中衛後衛がそれぞれ一人ずつそして中衛の隊員が隊長という玉狛第二とまったく同じ編成の部隊です。そして鈴鳴第一にはナンバー4攻撃手の村上がいる。玉狛は次のMAPを選べないし順位的にもマークされる側……玉狛第二の真価を問う一戦になりそうですね」
うわー鋼がきたよーこれは苦戦。那須隊もだけど。いや、とくに那須隊だ!那須隊はなかなかいいチームだから結構白熱しそうだな……今から楽しみ!
可愛い後輩と