「んー暇だなーなにもやることないなー」




あまりにも暇すぎて私は本部をぶらぶらとしていた。まあ誰にも会わない。いつもなら誰かとはすれ違うのに。まだまだ侵攻の爪痕は残ってるのかなー?なんて思ってみたり。




「……そういえば今日、侵攻の記者会見やるって唐沢さんから聞いたっけ。暇だから見るかな」




ポケットからスマホを取り出しワンセグを起動する。周りに座る場所なんてないし探すのも面倒だから壁によりかかって見ることにした。




「あ、ちょうど始まった!ナイスタイミング」




まずは、根付さんから今回の侵攻での被害の報告から始まった。悠一の話では最善に近い結果だったらしいから最悪だったら千佳たちだけではなく被害も相当な数いってたかもね。そして、会見は根付さんの報告から記者の質問へと変わった。




「《今回訓練生ばかりが狙われたということは「訓練生は緊急脱出ができない」と近界民側に知られたということでしょうか?》」


「《……訓練生は基地の中でしかトリガー使用を許されていません。なので近界民にトリガーの情報が漏れることは……》」


「《先月の上旬。市立第三中学校が近界民に狙われた事件がありましたよね。その際に現場にいた訓練生がトリガーを使って戦ったという目撃談があります。そこで近界民に情報が漏れたという可能性は……?》」


「《……その件はもちろんこちらでも把握していますがそれが原因であるとはまだ判断が……》」




記者の発言で、さっきまで根付さんに向かっていた記者たちの矛先がその訓練生……修に向かっていた。このやり方嫌だなーと思いつつ見るのをやめない。悠一じゃないけど楽しくなりそうな未来が見えたような気がしたから。




「《……!?なぜここにキミが……!?》」


「……修っ!眼を覚ましたんだねよかった……!」


「《三雲修です。今の話に出てきた先月学校でトリガーを使った訓練生はぼくです。質問があればぼくが直接答えます》」




記者ががやがやと騒がしくなる。元凶の登場のせいだろう。ま、修が悪いなんて私は思ってないけど。逆に尊敬をしているくらいだ。




「《……きみが先月学校で訓練生でありながらトリガーを使ったのはボーダーの規則違反だという話がある。それは知っていたかな?》」


「《はい》」


「《きみのその行動によって訓練生のトリガーの情報が漏れた疑いがあるんだがそれについてはどう思うかな?》」


「《今にして思えば……その可能性はあると思います》」


「《事の重大さをわかっていないのか!?32人が犠牲になったんだぞ!?「今にして思えば」!?そんな言い訳が通用するか!》」


「《言い訳する気はありません。情報が漏れると知っていたとしてもやっぱりトリガーを使ったと思います。それくらい切迫した状況でした》」




内容は全く笑える内容ではないけど、笑ってしまう。やっぱり修は修。彼らしいまっすぐで素直でいい発言。修らしいなとついつい笑ってしまう。 




「《そのせいでその先さらに犠牲者が出るとしてもかね!?》」


「《はい。将来的に被害が広がる可能性があったとしてもそれが目の前の人間を見捨てていい理由にはならないと思います》」


「《言ってることは立派だけど問題なのはあなたが訓練生だったことでしょ?あなたがはじめから正隊員だったら学校のお友達も守れてトリガーの情報も漏れなかった。ヒーローになりたいなら順序を守ってまず正隊員になるべきだったんじゃないの?》」


「《運命の分かれ目はこちらの都合とは関係なくやってきます。準備が整うまで待っていたらぼくにはきっと一生何もできません。ぼくはヒーローじゃない。誰もが納得するような結果は出せないただその時やるべきことを後悔しないようにやるだけです》」




また、記者の野次が修に飛ぶ。私の中では修の発言はとても立派だったし、かっこいい。今、後悔するくらいなら怒られてでもなんでも後悔しない選択をする……それが私のポリシーでもあるしね!




「《もう少ししおらしい所を見せたらどうだ。さっきから聞いてみれば開き直ってるだけじゃないかね。我々が訊きたいのは君が原因で失われた32人の若者の人生をきみはどう埋め合わせるつもりなのか。君がどう責任を取るのかということだよ》」


「《取り返します》」


「!」


「《近界民に攫われた皆さんの家族も友人も取り返しに行きます「責任」とか言われるまでもない当たり前のことです》」




またざわつく。さっきとは違うのは野次ではなくどよめきだということ。遠征は一般人には知られていないから。修、ぶっこむねーだけど、おかげで流れが変わった。




「《……彼の言ったとおり現在ボーダーでは連れ去られた人間の奪還計画を進めている。すでに無人機での近界民世界への渡航・往還試験は成功した》」


「《近界民の世界に隊員を送り込むと……!?危険ではないですか?32人を救うためにさらに犠牲が出る可能性が……》」


「《……そうかきみたちはこの場合「将来を見越してたかが32人は見捨てるべき」という意見だったな》」




人間とは不思議なもの……今まで32人の命はどうなるんだ!?と修に言っていたのにさらに危険な話になるとその32人がたかがという数になってしまう命は平等なのに。




「《この奪還計画は今回攫われた32人だけでなく第一次侵攻で行方不明になった400人以上の市民も対象になる。ボーダーにとって過去最大の長期プロジェクトになるだろう。我々は今まさに「戦力」を求めている。それは前線で戦う隊員であり隊員の援護を担う職員であり組織を支える母体となるこの都市そのものだ。従来の防衛活動及び奪還プロジェクトへの市民の理解と参加を期待する。以上だ》」


「《奪還計画の人員はどのように決めるんですか?三雲くんもそのメンバーということですか?》」


「《たいから希望者を募りその中から選定する。基本的にはA級以上の隊員。選抜試験も実施されるだろう。彼が遠征に参加できるかどうかは単純にその条件を満たせるかどうかで決まる》」


「《はい。わかっています》」




修は退場し、会見も終わったので画面を閉じる。私の口角はあがりっぱなしだ。今から修に会いに行く?んー目覚めたばかりだし会見で疲れただろうし退院したらにしよ!興奮が収まらないからランク戦かなんかしようかな。




「お、真李愛じゃん久しぶりだな」


「勇!いや、本部ではじゃない?学校一緒だし」


「そうだった。それにしてもやけに楽しそうだな」


「え?わかるー?」


「バレバレだっての」


「まじか。いや、うちの後輩は面白い子ばかりで楽しいなと思って」


「真李愛がそこまで言うのは珍しいな」


「そうだっけ?……勇ーなんかおごって」


「唐突だな!いいけどよ」


「やったー!」


「その代わり俺と付き合えよ」


「え、やだ。いらない」


「ガチの反応ひどくねぇか!?」




リーゼントを彼氏にする趣味はないかなー?せめて髪をおろして。あくまでせめてだからおろしても付き合うかどうかと言われたらノーだけど。勇無視して模擬戦場へと向かう。




「って無視かよ!?」


「勇うるさい。ブース入って」


「狙撃手と射手だっけか?いま」


「うんそう」


「俺が不利な気しかしない」


「頑張ってよA級」


「拒否権なしかよ……」




十本勝負で私が八勝して勝った。狙撃手と射手じゃ狙撃手が不利なんてわかりきっているから勇も何も言わないけど、不満はあるみたい。二勝はしたんだからいいじゃないか。私もなんで勇に挑んだのかよくわからないし?ノリ?




「ありがとう!」


「……おう」


「今度、デートはしてあげるから」


「まじか!?」


「いいよ。しょうがないから」


「よし!覚えてろよ!」


「はいはーい」




あのテンションの変わりようはすごいな。さすが見た目あんなんなくせにチャラ男だけあってデートといえばすぐ喜ぶ。それ以上は嫌だけど。




「いいっすねー俺ともしませんか?先輩」


「第二のチャラ男来たな。陽介」


「ちーす」


「あれはそうしないと面倒だからしただけ。それより秀次元気?」


「三輪っすか?いつも通りっすけど」


「そう。ならいいんだけど……あれから気になって……今から行っていい?」


「ん?いいっすよ」




というわけで、急遽三輪隊にお邪魔することにした。蓮ちゃんにも会えるしね!一石二鳥。




「客を連れてきたぞー」


「客?」


「やっほー」


「真李愛……!?」


「あら真李愛」




秀次くんこわーい。睨まれてるーなんでお前ここにいるんだみたいな目をしてくるー。




「というか秀次。私先輩なんだから呼び捨てしない!」


「っ……やめろ」


「蓮ちゃん秀次怖い」


「いつものことよ」


「蓮ちゃんも酷かった」




相変わらずクールで美人な幼馴染みだな。眼福眼福。ちょうど秀次の隣が空いていたからソファーに腰掛ける。




「なぜ俺のところにくる……!」


「秀次のとなりに来ちゃだめなの?」


「来るな」


「士郎といい秀次といい私後輩に慕われなさすぎじゃない!?」


「そんな事ないですよ」


「そ、そうですよ!」


「透、章平好き」


「す、好き!?」


「どうも」




という茶番をしたんだけど秀次我関せず。茶番だと気付いたのは蓮ちゃんと透くらいで陽介はなんか違うことしてる。いまだに顔を赤くしている章平には悪いことをしたな。




「そうだ。秀次」


「……なんだ」


「ありがとう」


「は?」


「あの時私の後輩……修を助けてくれたでしょ?だからありがとう」


「っ、やめろ!」




秀次の頭をよしよしと撫でるけど秀次はお気に召さないみたいで拒否反応をおこしてるけど、そんなの知らない。拒否されても撫でる手はやめない。




「……本当にありがとう…………秀次」


「なんだ」


「何か悩んでることがあったら相談しなよ?私や三輪隊に。なんでもかんでも秀次は溜め込むんだから」


「真李愛……」


「……」


「ま、すぐは無理だろうけどいつかは頼ってね?秀次と私は似たもの同士だからこれでも心配してるんだからね?」


「一緒にするな」


「本当に可愛くないなー」




たま撫でる。だけどさっきとは違って荒々しくぐしゃぐしゃーと。秀次をこんな可愛がれる日が来るなんて……!すごく嬉しい!




「と、いうわけで!蓮ちゃん秀次よろしくね」


「ええ分かったわ」


「お前はいつから俺の保護者になった……!」


「今?秀次が心配だから」


「余計なお世話だ」


「余計なお世話をかくの好きなの。じゃあ蓮ちゃん今度デートしようね」


「楽しみにしてるわ」


「チッ!」




秀次にさらに嫌われた?でも気になるんだよなーすごく危うい。いつかなにか起こしてしまうんじゃないか。壊れてしまうんじゃないかと思う怖さ。だから秀次に嫌がられようと私が秀次を気にかけようと思う。秀次好きだしね?後輩として。



強い眼差し




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