「おさむ……!しぬなおさむ!」
「大丈夫だ迅が死なないと言っている」
「陽太郎は男の子なんだからそんなに泣いちゃだめだよ。ほらおいで」
「真李愛ー!」
涙でぐしゃくじゃな陽太郎を抱き上げてよしよしとあやす。いつもは生意気だけどまだまだ子供だからしょうがない。
「そう言えば遊真はどうした?」
「さっきまでいたんですけど……外に行きました「レプリカを捜しに行く」って……」
「……そうか」
「……」
「敵の星がこっちの世界を離れるまでまだ何日かある。非番だった隊員がほぼ揃ってきたとはいえまだ気を抜くなよ」
「はい!」
「了解」
「了解です」
近界民侵攻から数日が経ったけど、修は目を覚まさない。生身で黒トリガーの攻撃を受けたのだから当たり前なのかもしれないがそれでも早く目を覚まして欲しい。あの時守ってあげれなかったから、謝りたい。でも、もうしばらくはかかるかもしれないので今日は諦めて本部へと足を運ぶ。
「よう、真李愛」
「……慶」
「元気ないな……そりゃあそうか。今、隊室に誰もいないから来いよ」
「うん……」
慶の後ろをとぼとぼ歩く。慶はたまにこっちを気にしながら歩いてくれてその優しさに涙が出そうになった。隊室につくとソファーへと促され座ると慶が隣に座ってきて私の肩を抱いて自分の方へと引き寄せ、慶に私がもたれかかるような体制になる。
「私、近くにいたの……秀次と一緒に人型と戦ってた……秀次は近界民しか眼中になかったから修が無事に着けるように援護しながら……」
「ああ」
「けど、秀次がワープされそうになって、咄嗟に助けようとしたけど間に合わなくて一緒に飛ばされちゃって……!」
「ああ」
「っもし、間に合ってたら修は怪我せずに私が援護して無事に本部に入れたのに……!私のせいで修は……」
「……それは違うだろ」
「でも……!」
「でもじゃない。お前らがワープされたおかげで三輪は風刃を出して近界民を倒すことができた。ワープされてなかったらもっと酷いことになっていたかもしれない」
「……そんなの結果論だよ」
「かもな。だが俺がそいつと同じ立場ならお前のせいだとは思わないむしろお前に感謝だ。お前の援護がなかったら着けなかったかもしれないからな」
慶が私の頭を優しく撫でてくれる。まるで子供をあやすように。そして、慶の言葉が心に響いてくる。私のおかげで修は助かった……?感謝してくれてるの?
「俺にはそいつの気持ちは分からないが、これだけは分かる。真李愛を責めたりはしないってことがな」
「慶も修も優しいからだよ……」
「……俺を優しいっていうなんて珍しいな」
「じゃなきゃ、あの時も今もこんなに私に優しくしてくれないでしょ?私は慶のおかげでここにいれる」
「……はぁ〜いっつもそれくらい素直なら可愛げあるんだけどな」
「……うるさい」
「だけどお前は間違ってる」
「え?」
慶が角度を変えて正面に向き直る。凄く真剣な顔……こんな真剣な顔をまじまじと見るのは久しぶり。相変わらず、顔は整ってるな。
「俺がお前に優しくするのは下心があるからだ。それにお前の悲しい顔なんて見たくないからな」
「……下心は触れないでおく。ありがとう慶」
慶の胸に自分のおでこを当ててもたれかかる。慶の匂いがひどく落ち着く。ずっとこのままでいたいほどに。
「触れろよ………俺は」
「うーす」
「…………」
「あれ?お邪魔だったすか?」
「いや、大丈夫」
「ちっ」
公平も帰ってきたことだし私も出ようかな。慶から離れて出入口……公平の元へと向かう。
「真李愛先輩目赤いっすね」
「まあ、ね」
「どうせ眼鏡君のことでしょ?」
「!」
「やっぱり。先輩のせいじゃないっすよ」
「うん、ありがとう公平」
止まってきた涙が公平の言葉でさらにあふれる。公平に感謝の意味もこめて抱きつくとびっくりしたような声がしたけどすぐにあやすように撫でてくれた。本当に優しいなみんな。
「慶も公平もありがとう。お邪魔しました」
「またっす」
「次会ったときはいつものお前に戻ってろよ」
「うん」
今日はもう休もう……心はだいぶ軽くなったな。でもやっぱり修には謝っておきたいなと考えながら本部を後にした。
「本当は邪魔だったんじゃないっすか?」
「タイミング最悪だったな」
「タイミング悪かったうえに、なんかすいません……真李愛先輩いい匂いっすね」
「さっきまでいっぱい堪能できたから悔しくはないな」
「……変態っすね」
「それはお互いさまだ」
――――慶や公平に慰められてから数日。修の御見舞に行こうと思って病院へと向かっていたら風間さんを見かけたので声をかけると目的は同じらしく一緒に向かうことにした。
「今回の侵攻活躍していたらしいな」
「あっちこっち行ってました」
「忍田本部長が褒めていたぞ」
「!ほんとですか!?それは嬉しいです」
「……元気がないな」
「あれ?結構吹っ切れたと思ったんですけど……よく分かりましたね」
「ずっとお前を見てるからな」
「え、風間さん……」
「さあな」
いう前にはぐらかされてしまった。聞き返しても答えてくれないだろうから諦める。
「三雲のことか?」
「そこまで分かるんですか?大事な後輩を守れなかったのが悔しくて……」
「お前が悲しんだり悔しがる必要はない。怪我をしたのは自分の責任だ。三雲もそれは分かっているからお前を責めたりしないとは太刀川あたりが言っているだろう。それで晴れないなら自分の気が済むまで謝ればいい……第三者より本人に言われたほうが晴れるだろうからな」
「風間さん……」
「まだ三雲は目を覚ましていない。それはまだ先になるかもしれないがな」
慶に相談した時、心が落ち着いたけど風間さんにさらに話したら落ち着いた状態ではなくて静まったような気がした。年長者のいうことは違うなあと実感する。
「風間さんのおかげで完全に吹っ切れました!ありがとうございます」
「お前には笑顔が一番似合うかなら」
「っ……ありがとうございます」
風間さんずるい…そんな事言われたら照れるに決まってる。赤い顔を隠しながら病院に到着すると、前に来た記憶を頼りに修の病室へと向かう。どうやら記憶は間違っていないみたいだ。三雲というネームプレートがついた部屋を発見した。コンコンとノックをすると聞いたことがない女性の声がした。
「失礼します」
「真李愛先輩!」
「こんにちは千佳。修くんにいつもお世話になっています八城真李愛と申します」
「ご丁寧にどうも。修の母です」
「お母様なんですか!お若くてお綺麗なお母様ですね。これお見舞です良かったらみなさんで食べてください」
「ありがとう」
お見舞としては定番なフルーツの盛り合わせを修のお母さんに渡す。結構いいお値段がしたけど慶からお金を拝借(無理矢理)したから私はそこまで出費はない。ありがとう、慶。
「千佳大丈夫?無理してない?」
「平気です」
「ならいいんだけど……また千佳の可愛い笑顔見せに玉狛にきてね?三人で」
「はい!」
「では、私たちはこれで。お大事に」
「ええ来てくれてありがとう」
お母さん美人……美人すぎてちょっと緊張した。でもなんとか渡せてよかった!もうちょっと話したかったけど無理でした。諦めて病院の外へと出て携帯の電源を入れると電話がすぐになった。相手は蓮ちゃんだ。風間さんに断ってから電話にでる。
「もしもし?」
「《真李愛?やっと出た》」
「ごめんね!お見舞にいってて」
「《そうだったの》」
「うん。どうしたの?電話なんかしてきて」
「《そうだったわ。この間の侵攻の戦功が発表されたわよ》」
「え?本当?じゃあ確認してみるね!わざわざありがとう!」
「《たまには三輪隊に遊びにきてね?》」
「はーい!じゃあね」
電話をきる。最近蓮ちゃんと会って話すことなんてなかったし、秀次がきになるから今度遊びに行こう!
「月見か?」
「はい!この間の侵攻の戦功が発表されたみたいですよ」
「そうか。ならうちの隊にくるか?」
「え?いいんですか?いきたいです!」
「そうか。菊池原も喜ぶ」
「士郎?逆に嫌がりそうですけど……」
「分かってないな」
「?」
それはどういう意味なんだろうか?士郎は、私のことは嫌いではないとは思うけど、苦手だと思ってたんだけど違うってことかな?うーん?
「おじゃましまーす」
「げ」
「真李愛先輩!こんにちは」
「顔に出しすぎだぞ士郎。歌歩ちゃんこんにちは。突然ごめんね?」
「だったら来なければいいのに」
「菊池原失礼だぞ。すいません真李愛先輩」
「いつものことだからー遼は久しぶりだよね?相変わらずかっこいいねー」
「ありがとうございます」
「……」
なんで士郎が不満気な顔をしているんだろうか。すごく睨まれた怖い。そして、いつもなら風間さんの隣に座るけど……士郎の隣に座り、さらに歌歩ちゃんを隣に促し私が真ん中に座る形にして結構距離を近くしてみた。
「せまいんですけど。てかなんで今日隣に来てるんですか」
「気分?」
「なんですかそれ」
「嬉しそうだな菊池原」
「え?そうなの?」
「風間さん変なこと言うのやめてください」
「でも、逃げないってことは嫌いではないんでしょう?」
歌歩ちゃんの言う通りだ。士郎に嫌われてはいないとわかっただけでもたまには隣にきて良かった!いい収穫かもしれない。
「なんで僕がこんな尋問されなきゃいけないんですか……それになんのために真李愛先輩来たんですか。僕で遊ぶためじゃないでしょ」
「あ、すっかりわすれてた」
「そうだったな三上」
「はい」
歌歩ちゃんが手元にもっていたパネルを器用に操作をしはじめた。ワクワクドキドキ!
「まずは特級戦功からです。三輪先輩、太刀川さん、天羽くん、空閑くん。そして真李愛先輩です」
「え」
「……」
「その疑いの目やめて」
「真李愛先輩は新型討伐数と人型を抑えたという功績を踏まえてみたいです」
「結果、抑えたの秀次と遊真だけどねー」
特級をいただけるとは。嬉しいけど複雑かな?修を護ることができなかったわけだし。
「そして、一級戦功が三雲くん、東さん、出水先輩、米屋先輩、緑川くん、風間隊、迅さん、小南先輩、嵐山隊です」
「え、修一級!?すごい!でもあれだけしたから当然か」
「はい。それが考慮されたみたいです。続いて二級戦功が木崎さん、烏丸先輩、当真先輩と奈良坂先輩と古寺くんのA級スナイパー組、諏訪隊、村上先輩に東隊、来馬隊、荒船隊、柿崎隊、茶野隊のB級合同の以上です」
「ありがとう!風間隊も戦功あったね」
「当たり前ですよ」
「はいはい。ちなみに撃破数ランキングとかある?」
「ありますよ。えっと……一位が同率一位で11体の太刀川さんと真李愛先輩。三位が嵐山隊で5体、四位が風間隊で4体です」
「あれ?そんなにやったっけー?記憶にない……」
もっと少ないような気がしたけど……あっちこっちの地区を行き来してたからな!そこまで気にしていられないか。
「まあ、いいや。歌歩ちゃんありがとうね!それとみんなお疲れ様でした」
「ああお疲れ様」
「ありがとうございます。お疲れ様です」
「お疲れ様です」
「……お疲れ様です」
「あ、そうだ士郎!遠征前の話おぼえてる?」
「……ああ。まだ覚えてたんですか」
「士郎もね。時間あったら申し込むから逃げないでね!」
「めんどくさい……」
絶対捕まえてやると意気込みながら風間隊を後にした。久しぶりにスッキリした一日をおくれたなー修も早く目が覚めるといいな。
嵐は去って