「やっほー」


「あ、真李愛ちゃんいらっしゃーい」


「いらっしゃいっす先輩」


「!真李愛ーっ!」


「ちょちょ!怖い怖い」




隊室に入ると私の入室に気付いた柚宇ちゃんが声をかけてくれてそれで慶も私の存在に気付いて帰りを待っていた飼い犬の如く全速ダッシュで抱きついてきたその勢いでバランスを崩しそうになるけど、慶が支えてくれてなんとかなる。そして何事もなく抱き締めるけどちょっと言いたい事があったから肩を掴んで無理矢理引き離す。




「抱きつくのはいいけど、飛びついてこないで!逆ならまだしも私は慶を支えきれないから!」


「抱きついてはいいの?」


「あっ……違う違う違う!」




柚宇ちゃんに指摘されて気づく。なんで抱きついてはいいなんて言ってるんだ。それじゃあ慶にバレバレじゃん……まあバレてもどうせ慶なんて私の事は妹かなんかにしか見てないからそういう意味で捉えてるんだろうな。ほら、今だってすっごく嬉しそうにこっちを見てたのに私が違うっていったらへこんでるし。そういう意味で好きだったら露骨すぎるもの。




「慶って意外にモテるから抱きついてるの見られたくないし。勘違いされたくないし」


「意外にってなんだ。それに真李愛だったら勘違いされてもいーぞ」


「私は嫌だ。変に目立ちたくない」


「真李愛先輩目立ってるじゃないですかボーダーでも学校でも」


「え?本当?」




確かにボーダーは結構長い間いるからC級はいないけどB級とA級は全員って言っていいほど知り合いだし話したりもするからある意味目立つってのは分かるけど学校は私一応平穏に過ごしてるはずなんだけどな…私噂になるような事やらかしたかな?




「そりゃあ有名ですよ。うちのクラスの先輩の事好きな人結構いますよ」


「確かにー結構真李愛ちゃんと話してると男の子の目線凄いよね」


「そう?柚宇ちゃんも結構モテると思うけど」


「柚宇さんも結構人気ですよ」


「本当ー?」




ゲーマーだけど見た目も中身もおっとりしてるし喋っていて嫌な感じはしなくていい子。女の子らしい女の子で私よりも男子受けは良さそうだと思う。何より私が男子だったら柚宇ちゃんと付き合いたいっていうくらい可愛い。




「へーやっぱりモテるんだな……」


「なに?慶そんな考え込んだ顔して」


「いや…」


「まー太刀川さんなりに色々あるんだよ!気にしない気にしない」




今までの話を聞いて何をそんなに考え込むのかよく分からないけど柚宇ちゃんがああ言うんだからあんまり気にしないことにしよう。慶は何考えてるのかたまによく分からない時があるし。




「でも、そういう公平も結構モテるよねー紹介して!っていう子いっぱいいるよ」


「あー…」


「出水くんあんまり嬉しくないのー?」


「俺本命一筋なんで」


「え?好きな人いるの?」


「まあ……」




照れくさそうにそっぽを向きながら頬をかく公平なんて見たことない。これはそこまで本気なんだなってすぐに分かるくらい。公平にそんなに愛されてる子って一体だれなんだろう…興味がわく。




「先輩が知ってる人ですよ」


「それ若干答えだよねー」


「柚宇ちゃん知ってるの!?」


「見てれば分かるよー」


「全然分からない…」




昔から誰が誰を好きとかには疎い方だったからなー全く分からない!公平が特別親しい人って私と同じ隊の柚宇ちゃんくらいで後はそこまで親しい女子はいなかった気がするんだよな。いや、待って…もしかしての柚宇ちゃんじゃない?




「柚宇ちゃん?」


「私?違うよーまず私だったらバレバレじゃん」


「確かにそうっすね」


「えーじゃあ誰?教えて?」


「真李愛先輩の好きな人教えてくれたらいいっすよ」


「え、それはやだ」


「じゃあ俺もだめってことで」




教えてもらえず。本人の前で告白する勇気なんてさらさらないのでここは諦めるしかない。でもやっぱり気になるなーでも交換条件だもんなー教えたくないからやっぱり諦めるか。




「で、真李愛は何しに来たんだ?」


「あっそうだ!てか、やっと慶喋った」


「太刀川さん傷心中だったんだよー」


「うるさい」




なんで傷心してるのかはさておき、本来の目的をすっかり忘れるところだった。明日、実はA級選抜部隊が遠征に向かう。その選抜部隊にこの太刀川隊も入っているという訳でしばらく会えないし明日お見送りもできないので今日お見送りに来たわけ。珍しい恋バナに夢中になってしまってすっかりわすれていた。




「明日からみんな遠征行っちゃうからお見送りと差し入れ」


「あーいつものだ。ありがとう真李愛ちゃん」


「いつもありがとうございます」


「ありがとな」




慶がお礼の言葉と共に頭を撫でる。慶に撫でられるのは嫌いじゃなくてむしろ好きの部類に入るくらい。昔から何かあったら撫でてくれたから、かな。ちなみにわ差し入れの中身はちょっとした軽食。いつでも気軽に食べられるように。




「いつもの事だけどしばらく柚宇ちゃんとゲームできないの寂しいな」


「私もだよ」


「俺もちょっと寂しいっすね」


「私も」


「俺は?俺がいなくて寂しいか?」


「はいはい。寂しいよ」




ぎゅうっと慶が抱き締める。ソファーで隣に座っていて体重をかけてくるものだから倒れてしまい慶に押し倒される形になる。いつも遠征前は甘えん坊モードに入るので何も文句は言わずによしよしと背中をポンポンと軽く叩いて落ち着かせる。どっちが歳上か分からなくなる。




「ゴホン!いつまで見せつけるつもりですか」


「いいだろ」


「ノーコメントで」


「じゃあ、そろそろ帰ろうかな」


「送ってく」


「ありがと。じゃあね!行ってらっしゃい」



行ってきますと2人が返事したのを聞いて私と慶は隊室を後にして本部の廊下を2人で軽く雑談しながら歩いていると前から大好きなあの人がやってきた。




「風間さん!」


「八城と……太刀川か」




慶を置いていきさっきの隊室に入ってきた時の慶のように抱きつく。さっきは逆だったからあれだったたけど、同じ背丈でも風間さんは男の人なのでいとも簡単にキャッチしてくれた。男らしい。




「今から帰りか?」


「はい!風間さんも明日から慶たちと遠征ですよね…寂しいです」


「そう長くはないだろう」


「風間さん真李愛とちょっとでも会えなくて寂しくないんですか?」


「それはお前だけだろ」




ぴしゃり。風間さんの強烈な一言で慶の心に相当なダメージ。風間さんは寂しくないんだと私の心にもダメージ。風間さんは相変わらずクール……。




「差し入れ慶に渡しといたので良かったらどーぞ」


「ああ…すまないないつも」


「!いえいえ」




風間さんは相変わらずクールかと思ったら微笑んで頭を撫でてくれた。あまり背丈変らないからちよまっと頑張ってる感の風間さんが可愛いらしくて思わずきゅんとした。破壊力すごい。




「真李愛遅くなる」


「はーい。じゃあ風間さん行ってらっしゃい」




片腕を掴み引っ張っていくので強制的に話を終わらせ、風間さんに手だけを振って引っ張られるがまま。さっきから全然慶喋らないし表情も見えないから何を考えているか分からない。




「慶、そろそろ離して」


「あ、ああ」




離してからも無言が続いて、気まずい雰囲気。なんで慶は黙ったままなのか全く理由が分からなくて何を話していいか分からないまま玉狛についてしまった。




「真李愛……」


「…ん?」


「お前は風間さんのことどう思ってるんだ?」


「どうって?」


「異性として」




慶がそんな質問するなんて珍しいと思いながら考える。風間さんをどう思うか……か。説明するのが難しいかも。なんて言えばいいかな……でも、異性としてなら、答えは決まってる。




「風間さんは好きだけどそういう好きじゃない。んー尊敬とかんーアイドル的な感じかな!」


「そうか。なら、俺は…異性とかじゃなくて単純にどう思ってる」


「どうしたのいきなり?」


「いいから」




ぱちりと目が合った慶の表情は真剣そのものでこれは私も真剣に答えないといけないとすぐに思った。でも、まだ素直にいえないことはあるから、それ以外はちゃんと真剣に答えようと思う。




「慶は……私にとっていて欲しい時に傍にいて欲しい言葉をくれる一生付き合っていたい大事な幼馴染みであって越えるべきライバル……これでいい?」


「っ……珍しく真李愛がデレたな」


「デレたって……慶が真剣だったから真剣に答えただけなんだけど」


「嬉しい。ありがとな」




慶の手が後頭部に回ったかと思うと、前髪越しに額に唇を近づけキスを落とした。手はすぐに離れて私は咄嗟に額を両手で押さえて見上げた。




「行ってくる。おやすみ」


「……おやすみ」




頭を一撫でして慶はすぐに背を向けた。私はどんどん上気して赤くなっていく頬を感じながらその背中を消えるまで見つめた。なんなのあの不意打ち…こんな顔のまま玉狛帰ったら絶対にみんなに何か言われるのが分かっていたので顔が覚めるまでその場に蹲っていた。



今日も今日とて




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