2人にとって大事な
「幸平クン!そしてえりなにアンナ!」
「おひさー!」
ついに月饗祭当日になった。私はあのアキラくんからの告白以来汐見ゼミに行ってない。私も自分のお店の準備で忙しかったってのもあるんだけど。別にアキラくんと会って緊張はしないと…思う。
「ついにこの日が来たわね…準備の方は万全かしら
?」
「おーまぁとりあえずはなー」
「バッチリ!」
内装も外装も着物もメニューもぜーんぶ自分の納得いくものに仕上がった。もうテンションが上がってしまう。
「そう♪よかった。アナタたちと同エリアで競えなかったのは残念だったけど…目抜き通りエリアは私たちの模擬店が独占するんだから♪」
大丈夫かな……あの話し合いを見る限り安心できないんだけど。しかも、2人とも死んでるし。本当に大丈夫かなアリスちゃん。
「ところで後ろの二人が異様に消耗しているけれど…今日までに何があったのよ。大丈夫?あなた達の店…」
「2人とも大丈夫かーい?生きてるかーい?」
「姫、穢れるので近寄らないでください」
話している間に校歌斉唱。中等部からいる私達は聞き覚えがあるメロディーだけど創真くんはそういえば聞くのは初めてだったか私達が普通に歌えていることに驚いているよう。
「――時は来た。今ここに――…月饗祭の開幕を宣言する!!!」
いよいよだ。練りに練った私とゆうくんのお店をやっとお客様にお見せすることができる。足を運んでもらえる。
「さ、行こうかー?ゆうくん」
「はい!」
自分たちの店へと向かう。私達のお店は完全予約制で一日50組限定。朝と昼の25組。今日と明日はもう既に予約はいっぱいで明後日からの予約は今日から受け付けなのでまだ分からない。
「いよいよ今日から月饗祭です。薙切家の御息女であるアンナ姫の顔に泥を汚さないよう。最低限の実力を持った選ばれた人間だということを忘れないようにお願いします」
「「はい!ゆう様!!」」
目がハートになって返事をする女の子たち。彼女達は、給仕担当の子たち。別に2人でも良かったんだけど、私達のお店は旅館をイメージしているので接客にも力をいれたかったのでゆうくんファンクラブに声をかけて面接して徹底的に叩き込んだ。なぜファンクラブから声をかけたかというとファンクラブの子達は私が探していたぴったりな顔の人材がたくさんいたから。
「ゆうくんかたーい。そんなプレッシャーかけどうするのー?」
「しかし、万が一姫の顔に…」
「やだなあーちょっと給仕ミスったくらいで私の顔に泥はつかないよ。料理で文句は言わせないよ」
どんなに文句を言ったお客様がいても私の料理を食べさせて文句を言わせなくする。それだけ自信はあるし実力があるからここまで来たわけだし。
「そうですね。失礼しました…改めて、一言お願いしますか?」
「うん!……月饗祭、私は1位や上位を狙うつもりは全くない!だけど…来てくれた人が私やゆうくんの事を忘れない心に残ってくれるような…そんな月饗祭にしたい。だから、わがままだけど私とゆうくんのために頑張って欲しい」
「アンナ姫……」
ゆうくんが涙ぐむ。それに釣られた女の子たちが悲鳴をあげる……なんか、急に成功するか不安になってきたんだけど大丈夫かな?こんなメンバーで本当に大丈夫?私人選ミスったかな……。
「……あ、最初のお客様まで30分きったよ!各自配置についてね」
「「「はい!」」」
私とゆうくんは厨房へと配置につく。下準備はとっくに出来ていて後はお客様の注文待ち。フレンチと違ってコース料理ではないから何が来るか分からない。何が来ても大丈夫なようにはなっている。
「ゆうちゃん」
「!?はい」
「背中預けれるのはゆうちゃんだけ……背中預けるからよろしくね」
「有り難き幸せです。愛しい私の姫」
30分後。初日最初のお客様が来店し、私の…私とゆうくんの月饗祭が始まった。
「全員秋の選抜本戦メンバーじゃないの――!!決勝の三人までもれなく赤字組ってどういう事です!!?誉れある秋の選抜の名を貶めるつもり!?」
「ご…ごめ…ごめんなさい……っ」
「べ…!別に田所さんに言ったわけじゃなくて…」
初日が無事に終了し、校舎に私やゆうくんを筆頭にえりなちゃん組にアリスちゃん組、創真くん組にアルディーニ組が集まっていた。えりなちゃんは初日の業績が赤字を出したのが創真くん組とアリスちゃん組ということで大変お怒りです。
「どう責任取るんだ薙切ぃ…食材の発注ミス連発しやがって!」
「けれど最初確認は葉山クンが行うはずだったでしょう!」
予想通り揉めているアリスちゃん組。アリスちゃんが唐突な事を言い出すからミス連発して赤字になったみたい。
「なんか、大変そうだねーゆうくん貸そうか?」
「ひ、姫…!私を姫から離すのですか!?」
私の腕を抱きしめ、私に詰め寄るゆうくん。涙は出ていないが声が泣きそうなのを物語っているけど付き合いが長いわたしにはわかる。これは演技だということに。特に男の子の前でやるから本当に嫉妬深いんだから。
「……面倒なやつは増やしたくない」
「誰が面倒なやつだ」
アキラくんがムッとした表情でゆうくんに返事を返した。朝から私はアキラくんに顔を向けられない。話しても目線は合わせずらいのが本音。たぶんアキラくんも普通に話しかけてくれてても見てくれていないのは気づいてる。だけど何も言わずにいてくれる。今が月饗祭だからか私の気持ちが整理できるまで知らないふりしてくれてるのかどうかまでは分からないけど…っていけない。話がそれちゃった。
「おい黒木場…オメェの主人はどうなってんだ。前日まで毎日メニュー変更しまくりやがって!だからこんなミスをやらかすんだろ!」
「何言ってんだ…たぶん明日からもずっとだぞ」
リョウくんが当たり前みたいな感じで言葉を放つ。それは私も同感したので首を何度もコクコクと頷く。本当に、ぞっとするね。どんなホラー映画よりこわい。だめだ、本当にみんな月饗祭生き残れるか不安になってきた。
「とにかく…初日分の赤字はこれからカバーするしかないわ。明日以降で収支を黒字に持っていくのよっ。切り替えましょう」
「ほとんどお前のせいだろが反省してんのか!!」
こちらは、ピンチだけどそれすら平和に見える私は頭がいかれたのかな。もうアリスちゃんのわがままにはなれたのかもしれない。アキラくんにリョウくん頑張れ。
「…ところで山の手エリアはどうだったんだ?薙切は新戸とかと店出してるんだよな。何位だった?」
「……2位だったわ」
「へー薙切2位なんだぁ」
この2人は仲いいな。だんだんと創真くんもえりなちゃんの扱い方に慣れたみたいですっかりとえりなちゃんをてなずけてるように見える。そして、えりなちゃんもなんだかんだで楽しそう。
「何ですその顔は!!君には久我さんの売上げを越えるという目標があるようだけれど…全ての参加者がその限りではありません。売上げを増やすことにこだわらず自分の料理を追求しようとする生徒も大勢いるわ。私の店やアンナの店は予約制にして飛び入りのお客様はお断りしているし一色先輩も山の手エリアにしては価格をかなり低めに設定しているわね」
えりなちゃん、御丁寧な説明どうも。えりなちゃんがいうように私も売り上げが目標じゃない。開店前にスタッフの子達に言ったとおりの理由。
「ま、私達は調理2人だけだから飛び入り参加OKにすると大変だからってだけなんだけどねー」
「はー…人によって色々あんのなぁ」
「久我先輩はもうがっつり売上げ稼ぎに来てるよなー」
「うん…それで今日は大苦戦だったもんね。創真くんの胡椒餅だって…ものすごく美味しいのにお客さんに集まってもらえさえすればなぁ…」
中華研は大所帯だからねーたーくさんお客様が来ても対応できるくらい。でも、それでも対応できないときだってあると思うけどねえ?
「どれどれ…これが初日の売上げランキングか。うお!山の手エリアの十傑だらけじゃんか!」
「へ〜四席の人がトップなのか!それに司先輩は5位…意外だなぁどんな店出してんだろ?」
そういえば……私もえいし先輩がどんなお店出してるのか聞いてないや。朝と昼の間の準備時間に行ってみようっと。
「わっ一色先輩それでも7位に入ってるよ…!」
「ホントだ!さすがだなオイ。アンナも4位に入ってるしこうして見ると薙切ってマジスゲーのな〜お前らの店に顔出すから食わせてくれよ」
「予約して入ってくるんだったら構わないよー」
「………」
はい、えりなちゃんはどうやら嫌なようです。凄く嫌そうな表情をしてます。
「ホラ胡椒餅やるから」
「私の店で食べたかったら松チケットを束で用意してからいらっしゃい」
「あれ…第二席の人の名前がねーな。それに叡山先輩も見当たらねーぞ?参加してねーのかな」
えりなちゃんの発言を普通に無視して違う話をはじた創真くん。やっぱりえりなちゃんの扱い方上手くなってない?今のスルースキルはよかったよ、うん。
「あれ…?でも紅葉狩りの時になにか手配してたような…」
「で…中央エリアは久我先輩が1位で……俺達の屋台は――」
「最下位ねっ」
「俺達もな…」
そりゃあ赤字出したもの。赤字を出すのって逆に難しいくらいだから最下位にもなるわ。ちなみに、山の手エリアが20店舗で中央エリアが40店舗、目抜き通りエリアが60店舗の合計120店舗あるよ。
「…とにかく!別エリアの事を気にしてる場合じゃないでしょう。中央エリアで久我さんに勝つことだけを考えなければ――」
「そう?」
きょとんとえりなちゃんを見る創真くん。彼は彼なりに考えがあるようなのでそれを楽しみにしておこう!
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