告げられない想い
「ゆうくーん」
「!はい!」
「月饗祭のことなんだけどー」
「あ、はい!」
事前にもらった申込用紙に必要事項を記入済みのものをゆうくんに見せる。
「これで大丈夫?」
「はい!問題ないです」
「んーじゃ、提出しにいこー」
締切が近づいてるからきっと混んでるだろうなー誰がどこに行くかも気になるし誰かに会えないかなーと期待しつつ学園内を移動する。
「あ、アンナ様」
「あ!えりなちゃんに緋沙子ちゃん!2人も提出しに行くの?」
「ええ」
ちらっと緋沙子ちゃんが持っている申込用紙を盗み見。予想通りのエリア選択だった。
「あなたも山の手エリアなの?」
「うん、山の手エリアの方がやりやすいかなーって。えりなちゃんとは勝負できそうだね」
「負けないわよ」
ニコニコと余裕の笑顔を浮べる。それにちょっとむすっとしたえりなちゃんが可愛くて頬をツンツンして遊んでみた。最初は抵抗してたけどだんだんと面倒になったのか何も言わなくなったのでずっと遊んでた……その間後ろからすごいカシャカシャ撮られてた気がするけど。
「あ、ついたー早速険悪だね」
「ええ。失礼…どいて下さる?水戸郁魅さん」
「ああん!?わあ―――っ!!」
いくみちゃんが振り向いた瞬間えりなちゃん!あこがれのえりなちゃんがいた事にびっくりして思わず叫んでるのが可愛いね。私絶対視界に入ってないな。
「えりな様!すすすみません…!」
「ごめんねーいくみちゃん」
「な、薙切アンナ!?」
うん、やっぱり気づいてなかったみたい。それだけえりなちゃんに、憧れてるんだね。可愛らしいね。あ、いけないいけない。申込用紙提出しなくちゃいけないんだ。
「私もお願いしまーす」
「はい………確かに。アンナお嬢様も出店申込み書類受理致しました」
「はーい」
私が書類を提出すると、創真くんがやってきた。そういえばゆうくんから出店するらしいと聞いたなーなにするんだろう。
「え!?ほ…本当にここでいいんですか!?中華料理研究会の真ん前ですよ!!?」
「「!!?」」
またー攻めるなぁ彼は。どうせあのお茶会でのてる先輩の発言があったからだろうな。料理でなにか勝ったら食戟いいよーのあの発言。
「うす空いてます?」
「は、はぁ…何しろ中華研が強豪なので…みんな近くに出店したがらずまだ空いてますが」
「そーすか!やーよかった!あ、それとー…料理のジャンルは「中華」でいきます」
あらあらあら、本当に攻めるなぁ……場所だけじゃなくてジャンルまで攻めますか。本当に見てて飽きないね、この子。
「…地獄の合宿で朝食200食づくりの課題あっただろ。あん時俺がすべり込みでクリアできたのはお前の列に並んでた客をいい感じに引っ張れたのがデカかったんだよな」
へーそんなことがあったんだ。知らなかった!えりなちゃん全く話してくれないから!今度詳しく聞こう。
「思ってみたら俺が合宿生き残れたのもお前のおかげだわある意味。サンキュー薙切」
「バカにしないで何がサンキューよ私への侮辱は許しませんからね」
へらへら話す創真くんに顔を真っ赤にするえりなちゃん。この光景も見慣れたなーいつの間にか。私達以外にこんな顔をすることなんて滅多になかったのにねー。
「あ、そうそう創真くん」
「ん?あ、アンナじゃん!」
「やっほーじゃなくって創真くんってこの出し物赤字になったら退学って知ってるの?」
その瞬間、創真くんの表情が変わった。あ、絶対知らなかったなこれ。うわーご愁傷様。てる先輩に挑発してたけど、大丈夫かなこの子……退学にはならないとは思うけど心配になってきたな。
「ま、まあ何かあったらいいなよ。それじゃあ!えりなちゃんもまたねー」
「あ、姫!まってください!」
創真君も気になるけどそれよりも自分の事だ。まだまだやらなきゃいけない事は沢山あるんだから!
「姫……幸平に甘くないですか?」
「ん?え、そう?」
「そうです!さっきも相談に乗る気満々で……」
歩いていた足を止めて後ろにいるゆうくんに振り向く。涙は出てはいないけど今にも泣きそうなくらい悲しい顔をしていた。
「ゆうくんヤキモチ?」
「なっ……そうです!!姫に気にかけてもらえて……羨ましいです」
「ゆうくんだって気にしてるよ?いっつも!なんなら、創真くんはただの友達だけどゆうくんは大事な従者。ゆうくんの方がずーっと大事だよ?」
本当は頭を撫でてあげたいけど身長が高すぎて届かないから頬を優しく撫でる。最初は驚いてピクッとしたけどすぐに私の手にすりすりしてきた。
「……葉山や、黒木場より大事ですか…?」
「どうしてその2人なのか分からないけど、もちろん!ゆうくんの方が大事」
「……やった」
小さくガッツポーズするゆうくんが可愛くて思わず笑ってしまった。けど、よほど嬉しかったのかゆうくんは気づいてない。
「本当にゆうくんは私の事大好きだなー」
「もちろんです!なんせアンナ姫は……私の初恋の方なんですから」
「……そうだねー」
「だけど、私はあなたに……っ、この気持ちをありのままに伝えられる男が羨ましい」
太陽の光に当たり輝いたゆうくんがやけに眩しく見えた。私はゆうちゃんの気持ちに答えられない。それは本人も分かっている。ゆうちゃんの真剣な表情に私は笑顔で残酷な言葉しかかけられない。
「うん……ゆうくんの気持ちには答えることができないけど、ずっと側にいて……とても残酷なことを言っているのは分かってるけど…」
「はい。分かってます……ずっと側にいます」
「……ありがとう」
ちゅ、っと手を持ち上げられ甲に唇があたる感触。それはすぐに離れて私の手を握っていた手も離された。そして、また私を真っ直ぐ見つめてくる。
「……姫は、葉山と黒木場どう思っているんですか?その……気になって、いますよね?」
「……だからやたらと突っかかったり気にしたりしてたの?可愛いなー……気になってるのは確かだけどそれがどういう感情なのか………私にはまだ分からないかな」
「私は反対です。あの2人は危険です!まだアルディーニ兄弟の方が私はオススメできます!」
す、すごい気迫だ……そんなに2人が嫌いなんだね……なにしたんだろ、あの2人。見た感じ何もしてないと思うんだけど……私が気づいてないだけ?
「嫌いじゃないけど……2人はそういう感じではないかな」
「そうですか…」
「さ、この話は終わり!月饗祭の準備しちゃわないと!」
「はい!」
私じゃなくて、ゆうちゃんにいつかいい出会いがあるといいな。ゆうちゃんが女の子になれる。そんな相手に出会えますように。
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