強者となって


「どうぞ。これが私のフレンチです」




先輩や先生の前に料理をお出しする。見た目は創真くんのような派手なものではなくて見た目は普通そのものなんだけど。




「アンナちゃんはスープなのね」


「はい!食べてみてくださーい」




一斉に一口掬って口に含む。そして途端に景色は店内から日本の木造家屋へと変わっていく。割烹着を来て作る母の姿が浮かぶ。




「これは……味噌汁の風味!」


「最初は味噌汁だけど……」


「飲めば飲むほどフレンチを感じる」




審査員の先輩たちの手は止まることは無い。みんながその不思議さに手を止めずに飲み続けている。それに嬉しくて自然と口角があがる。




「私は今回、どうしても和食とフレンチを混合させたかったんです。今までの私のスタイルがそうだったのもありますが、私もこの日本が原点だったからです」




チラッと四宮先輩に視線を移すけど、すぐに視線を戻す。




「私が1番大好きな和食は味噌汁です。同じ味噌汁なのに家庭によって味も具材も違う…そこが奥が深いから………フレンチも同様です。だから単純ですけど合うなと思ったので味噌汁と合わせてみました!」




と、まあ無駄話はここまでにして!笑顔を切り替えて真剣な表情に戻す。




「で、スープのベースは味噌です。味噌は西京味噌。主に京都の方でよく使われる甘口の味噌を少量使用しました。牛乳を使ってフレンチらしさをプラスし食材はシンプルにコーンと人参とキャベツにたまねぎだけです」


「…それだけ?その割には味に奥深さを感じる……」


「食べて分かると思いますが、お出ししたスープの中にはコーンしか見当たらないと思います。他の食材はドロドロになるまで煮込むことで食材の味でスープを引き立たせました」




そう、一見すれば普通の料理。あまりインパクトが少なく物足りなさを特に創真くんの後だと感じるだろうけど、それでいい。それが狙い。




「──なるほどな。インパクトに長けた料理が多い中であえてシンプルに行くことでより印象を与える。シンプルだが味が深い。お前らしい」


「ふふ、それが私の真髄ですから」




四宮先輩が相変わらずだなという風に見てくるので若干ドヤ顔で返してやったよ!




「―――ここが終わったらまた別の現場か」


「あ、はい!そうっす」


「ですね」




まだ半分なんだよねーすっごく濃い2週間だった。これからもだろうけど。さすがに今回ほど濃くはならないだろうなーっていうぐらい濃かった。




「お前はたった1週間とはいえこの俺の店で修行したんだ。別の現場で不合格になりやがったらSHINO'sの名に傷がつく。肝に銘じておくんだな。アンナもだからな」


「落ちないので安心してください」


「…うす、ありがとうございました…四宮師匠!!!」




!?四宮師匠……なんか面白い。師匠ってガラじゃない!むしろラスボス…。




「やめろ!だ…誰が師匠だ!あとアンナ!失礼なこと考えるな!」


「バレてる!?」




その後も創真くんとついでに私にも色々教えてくれて(叩き込んで)あっという間に朝になった。次の場所に移動しなくちゃいけない。




「やーホントにすんません…朝まで教えてもらっちゃって」


「ふんお前の覚えが悪かったからな」


「といいながら楽しそうでしたよ?」


「……」




無言で睨んできたのでしらんぷり。朝でも四宮先輩は通常運転でした。




「幸平。獲れよ第一席」


「うす!!!」


「創真くんだけずるいー」




ぶーぶー言うがガン無視されました。お前に応援は必要ないってことですか。もう、四宮先輩嫌い。私は拗ねたままSHINO'sを後にした。そして、審査員に合格をもらい、次のスタジエールへと向かった。あ、そうだ!コンペの結果は見事2人とも合格でメニューに乗ることになった。メニュー名までは知らされてないのが残念。




「さて、次のスタジエールも頑張りますか」




と、張り切っていたのはもう2週間前の話。そう、無事にスタジエールは終わって帰宅の車の中!ちなみに、他のスタジエールはタクミくんにえりなちゃんと一緒でした。タクミくんとは多少親睦は深められたのが嬉しかったなーただ、えりなちゃんは通常運転すぎて疲れた。




「ただいまー我が家!……そして久しぶりゆうちゃん?スタジエールでの成果を聞かせてもらおうかー」


「……はい」




いつもはゆうちゃんがやる仕事は今日はメイドさんにやってもらう。私の部屋のイスに向かい合って座る。ずっと俯いたままで元気がない様子。そうさせたのは私なんだけどねー今日でゆうちゃんの命運がかかってるから本人は緊張してるんだろう。メイドさんがいれてくれた紅茶を一口含んで戻すと口を開く。




「早速だけどゆうちゃんは私の望む結果を見つけられたのか。テストさせてもらうよ?」


「…はい」


「だけど、その前に…スタジエールの事を聞こうか。誰かと一緒だった?」


「葉山と田所と一緒になりました」




アキラくんと恵ちゃんかーなかなかいい子と当たったね。アキラくんとの相性はよろしくないだろうけどね。なにか学べたかな?




「どうだった?」


「……正直悔しかったです。葉山も田所もさすがは姫が認めたやつだけあって……どれだけ自分が実力不足だったかが分かりました」


「で?ゆうちゃんはどうしたの?痛感してそれで終わらしたわけじゃないよね?」




手をぎゅっと強く握りながら話すゆうちゃんにわざと冷たくして圧をかける。ごめんね、これもあなたのためなんだ。




「自分には何が足りないのか。それを知るために2人を観察してみました。それで分かったことがありました」




俯いていた顔をバッと上げてこちらを真っ直ぐに見つめてくる。真剣でいて今まで見たことがないくらいの強い眼差しに一瞬見惚れてしまった。




「私には目標が足りていなかった。葉山や田所には強い目標や気持ちがありました…それに比べて私はただ姫の側にいたいだけで料理をしてました。自分がなにをしたくてどうしたいなんてなんにも考えていなかった」




持っていたティーカップをそっとテーブルに置いて私もちゃんとゆうちゃんに向き合う。




「そうだね、あなたはこの学園のどの生徒よりそれが欠落していた。私が好きだったのはそんな君じゃなかったんだけど……その目標が私への答えでしょ?なら、それは今からだすテストで教えてもらおうか」




その言葉を聞くとゆうちゃんがゴクリと唾液を飲む音が聞こえた気がした。




「テストなんていってもただ私がゆうちゃんに質問するだけ、それに正直に答えてくれればいいよ。まず、最初の質問あなたにとって、私はなに?」


「全てに置いて見習うべき私にとっては絶対の君主。尊敬すべき方です」




うん、そこは変わってない。相変わらずかたいなー緋紗子ちゃん以上にかたい。




「じゃあ、その見習うべきとこってなに?」


「主に料理に対する情熱や、知識量。技術です」


「…ふーん。なんで、料理人になりたいの?」


「アンナ姫のために。アンナ姫を私生活でも料理人としてもサポートしたいからです」




テストするなんていったけどどんな質問をしようか全く考えていなかった。私が聞きたい事はまだ聞けてないけどなんて質問していいか分からずにちょっとの間無言の時間ができた。




「…あ、どうして私にそんなに忠誠してくれるの?」


「……私に夢を与えてくれたからってのもありますが、なんだかほっとけないんです。この人のそばにいたいって思ってしまうからですかね」


「………そっか。じゃあ、最後の質問。こえるべき目標は?」


「今は、秋の選抜のかりがあるので黒木場を負かせること。次は、まだ全然倒せることができてない姫を1回でも負かせることです」


「!」




ニヤリとまた、見たこともない表情を見せてくれたことにびっくりしたけど、それはすぐに笑いに変わった。




「あはははっ!いいよいいよ!それだよ!私が欲しかったのは!」




お腹をかかえて笑う。だって面白いから、すっごくすっごくこれからのゆうちゃんの成長が楽しみでしかたがない。




「はー……久々にこんなに笑った………合格だよゆうちゃん。戻っておいで?あなたのいるべき場所に」


「っ!はい!」


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