貴重な昼休憩。

味気ないコンビニ弁当をたいらげ、大きなあくびを一つした。

食欲が満たされると睡眠欲が顔を出す。

同じく休憩を共にするそらさんは弁当と一緒に買ってきた総合情報誌を広げているが、俺は特にすることもない。

時間もまだあることだし昼寝をするにした。

腕を組み瞼を閉じる。

すると見計らったかのようなタイミングでそらさんが口を開いた。



「最近のAV女優って可愛いよなぁー。ほら海司クンも見てみ」

「…興味ないっす」

「何でAVなんか出ちゃうのかね〜もったいない」

「色々あるんじゃないっすか」

「あっこのコ俺好み!」

「…………」



律儀に返事を返すのも馬鹿らしいので昼寝に集中することにした。



「あ。…えっ?」


あーうるさい。


「ちょ、海司」


無視無視。


「これ!見ろ!」


俺もう寝てます。



「First nameちゃん!First nameちゃんがAV女優!」



ばちっと音がしそうなほど勢いよく目を開けた。



「はっ!?」

「これ、この子!First nameちゃんにすげー似てる」



必死に誌面を指差すそらさんの手元を覗き込んだ。



「………」

「な、似てるっしょ?」



似てる。確かに似てる。

目鼻立ちと髪型、それに柔らかな雰囲気もそっくりだ。

パッと見はまさにFirst name本人といえる。



「…マジかよ…」



眉間に皺が寄る。気持ちのいいものではなかった。


女優に罪は無いのだが、何だかFirst nameを貶められているような気がしてしまう。

どうやら最近デビューしたばかりの注目新人女優…らしい。

編集部のイチオシだそうで、女優特集のなかで特に大きく扱われている。

生年月日やスリーサイズなどの詳細なプロフィールも載っていた。



「胸はFirst nameちゃんよりでかそうだな」



思わずそらさんの後頭部を殴った。



「ってぇーな海司おまえ先輩に何すんだよ!」

「手が滑りました」

「アホか!」



とその時、扉が開く音がしたかと思うと昴さんが入ってきた。

彼は午後から半休なので引継ぎを終えたのだろう。



「やかましいな」

「キャリア!これ見てよー!」



この衝撃を先輩にも伝えようと、そらさんが広げたままの情報誌を持ち上げた瞬間。



「こんにちはー」



昴さんの背後からFirst nameが顔を出した。


ガタガタガタッ


突然の本人登場に度肝を抜かれ、のけ反ったそらの後頭部が顔面に直撃した海司は椅子から転げ落ちた。



「わ!海司大丈夫?」

「あ、あぁ」

「……何やってんだお前ら」

「いやぁFirst nameちゃん久しぶりだねどうしたの元気してたー!?」



アハハハハとそらさんの演技力の欠片もない笑い声が部屋に響く。

挙動不審な俺たちに昴さんが怪訝な目を向けているが今は流すしかない。

そして俺は立ち上がろうとした時に気付いた。

ビビったあまりそらさんが放り投げた衝撃の源が、あろうことかFirst nameの足元まで転がっていた。



「?」

「だあああッ触るなー!!」



職業柄長けているはずの危機回避能力はこんな時に限って発揮されない。

拾い上げた誌面に目を落としたFirst nameの動きがぎしっ、と止まり。



「何だ?どうし」



横から覗き込んだ昴さんの端正な口元が引きつった。



「………」

「あのねFirst nameちゃん誤解しないでね?たまたま開いたページがそこだったみたいな感じで俺達は何も」

「First name、見るんじゃない」



昴さんは固まったままのFirst nameの手から情報誌を取り上げ丸めると、俺とそらさんの元に歩み寄りスッパーン!と思いっきり頭を叩いた。



「ぎえっ」

「ぐあっ」



そらさんは机に突っ伏し俺は再び床に沈んだ。

昴さんは絶対零度の冷たい目をしていて、気まずい思いをしているだろうFirst nameは顔を真っ赤にして俯いている。



「お前らは職場でこんな下世話なもん見やがって…わかってるんだろうな」



こうして昴さんの長い説教タイムが始まり貴重な休憩時間は泡となって消えた。



First nameもその後しばらく目を合わせてくれなかった。












  

















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