「かーいーじくーん」
軽快な足音が聞こえたかと思うとノックも無しに扉が開かれた。帰り支度の手を止め、いつものノリで登場したそらさんを見やる。
厄介な猫が来た。
「あっやだ何その目」
「…いえ。お疲れっす」
んーっ、と伸びを一つして猫は椅子に座った。
「あー腹減った。海司君はこれからFirst nameちゃんとデート?」
「ええ、まぁ」
「いーなぁ〜。俺なんか徹夜でハゲデブ大臣の警護だってのに」
「頑張ってください」
「心こもってないぞ」
俺もFirst nameちゃんとデートしたい!と騒ぐそらさんを無視して、鞄を手に取った。
「じゃ、あいつが待ってるんで。お先に失礼します」
「時に海司くん」
「はい?」
「First nameちゃんとのエッチどーよ」
…………………。
「はぁっ!?」
「隠すなよー。ついにヤったんだろ?」
そらさんは机に頬杖をついてニヤニヤしながら俺を見上げてくる。
「あの奥手な海司くんがねぇー。念願叶ってよかったじゃん」
「つ、つーか何で知ってるんすか…!?」
「──あ、マジでヤってたんだ」
…………………。
「はぁっ!?」
「なんっかFirst nameちゃん最近女っぽくなったと思ってたんだよなー。肌も艶々してるし」
───カマかけられた…!
「腰つきも前よりエロ…ぐええっ」
「人の彼女のどこ見てんすか」
「かっ…い、じ、し、ぬ゙…っ」
思わずそらさんの首を絞めた。
顔が青くなり始めたそらさんを解放して、はー…と溜め息を吐く。
俺とFirst nameの事情をこの人が知る訳が無いことくらい、冷静に考えればわかることなのに。
あっさり引っ掛かる自分が情けなくなった。
「てめ…本気で絞めやがって…」
「すんません、つい。でもFirst nameを卑猥な目で見るのが悪いんです」
「仕方ねぇだろー男なんだから」
「First nameはだめです。俺のですから」
「あっそー。はいはいわっかりました〜」
まったく…、ともう一つ溜め息を一つ吐いてから再び鞄を持ち直した。
「じゃ俺は帰りますから。お疲れ様でした」
「ところで海司くん」
「……まだ何かあるんすか」
「First nameちゃんのカラダどうだった?」
俺はそらさんを投げ飛ばした。
「First name。しばらく官邸に来んな」
「え?なんで?」
「何ででもだ!いいな?彼氏命令だからな!」
「……はぁ〜?」