「First name。これ陰干ししてないだろ」



クリーニング店のビニールに包まれたままのワンピースを手に取った。



俺は今日、First nameのアパートで引っ越しの荷造りを手伝っている。

婚約を機に同棲が決まったからだ。



「陰干し? してませんけど」



処分する雑誌類をヒモで縛っていたFirst nameが振り返った。



「しなきゃ駄目だろ。クリーニング後の陰干しは常識だ」

「そうなんですか? 知りませんでした」

「湿気ってんだからカビの原因になるだろーが」



まったくお前はと言いながら丁寧に畳んで段ボールに入れる。


その他にもボタンが取れたままのシャツや雑に収納された小物類、などなど。



俺はため息を溢しながらそれらをクローゼットから取り出していった。






「…ん?」



小言を挟みながらもあらかた片付けた頃、クローゼットの最奥に段ボールがあることに気付いた。


閉まっていない蓋を掴んで引っ張り出す。



「何だこれ」



一番上に入っていた中身を一つ、手に取った。



「あ! 卒アル!」



First nameが嬉しげな声を上げて寄ってきた。



「懐かしいなぁ。高校のですよ」

「…へえ」



手で埃を払う。



「高校ね。おまえ何組?」

「えっと…4組です」



ちょっと恥ずかしいなぁと言いながら覗き込んでくる。
並んで一緒に探す。



「お。いた」



写真の中で笑う、ちょっとあどけないFirst name。

思わず頬が緩む。



「可愛いな」

「ほ、ほんと?」



素直に喜ぶ小さな頭を撫でた。




「どんな高校生活だったんだ?」



ページを捲りながら尋ねる。



「普通ですよ。放課後は友達とファーストフードみたいな」

「ははっ。色気ねーな」

「仕方ないじゃないですか。…彼氏できなかったんだもん」



ぷうっと膨れてみせるFirst name。



「いいんだよそれで」



膨らんだ頬を指で突っつく。
空気が抜けて間抜けな音が鳴った。



「好きな奴は?」

「あ、それはいました」



きっぱりと言い切られる。



「………」



俺は小さな鼻をぎゅうっと摘まんだ。



「痛っ!痛いっ!!」



じたばたと抵抗されるが無言で摘まみ続けた。


頬が紅潮してきたのを見て離してやる。



「何するんですかもう!」



First nameは涙目になって抗議した。



「いや別に。さぞかし楽しかったんだろうなと思って」

「わけわかんないんですけどっ……あ、もしかして」



見上げてくるFirst nameから顔を背ける。



「やきもち?」

「………」



横目で睨み付け、再び鼻へと手を伸ばす。

だが危機を察知したこいつに両手で鼻をガードされたので、髪の毛をぐしゃぐしゃとかき混ぜた。

ぎゃー!と可愛くない悲鳴が上がった。



「それが初恋か?」

「…はい…」



滅茶苦茶になった頭を押さえ、小さく頷くFirst name。



それを見て深く息を吐いた。





「…悪い」




乱した髪を直してやる。


後頭部に手を添え、肩口に引き寄せた。





知りたい、そばにいたい、自分以外を見て欲しくない。

恋と呼ばれるそんな衝動を、俺はFirst nameと出逢って初めて知った。


それをこいつが他の誰かに感じて、
特別な笑顔や仕草を知っている男が俺以外にいると思うだけで、

どうしようもなく苛々する。


そんな資格など無いのに。


嫌になるほど、わかっているのに。





「呆れたか?」



First nameは首を横に振り、胡座を掻いた俺の太ももに手を置いた。



「…自分から聞いたのにとは思いましたけど…」



くすくすと笑う。



「ちょっと嬉しかったんで別にいいです」



昔を気にするのは私だけだと思ってました、と小さな声で付け足した。




First nameの頭に顎を乗せる。



床へ視線を落とすと、そこには開いたまま投げ出されている卒業アルバム。



それを見つめたまま、腕の中の存在をぎゅっと抱き締める。




「…俺のもんだ」




ぽつりと呟いた。




「はい?」



肩に手を置き体を離す。



「お前のせいで荷造りが中断したって言ったんだよ」

「私のせいですか!?」

「続きやるぞ。…早く二人で暮らしたいだろ?」



少し赤みの残る鼻にキスを落とし、アルバムを手に立ち上がる。



私なにもしてないのにと漏らす声が聞こえたが、無かったことにした。






欲深い俺は容易く心を掻き乱される。



だけど大切なのは今。
俺とFirst nameで紡いでいく未来。



それは確かにこの手にある。



それさえあればいいと───




「…思えたら楽なんだけどな…」




苦い笑みをわずかに浮かべ、アルバムを閉じた。










  

















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