あの日から、お前は俺の一部になった。
「…久しぶり」
亡き恋人の眠る墓に花を手向ける。彼女の好きだった花だ。
「辛気くさい顔、とか言うなよ」
季節は何度も巡った。
だが時は止まっている。
「これでも元気にやってるんだ」
景色は色を失ったし、心は動くことをやめた。
あの日から俺の五感は麻痺したままだ。
「仕事も忙しいし」
この世界のどこにも、お前はいない。
「…毎日、大変だよ」
生きることがこんなにも苦しい。
自分の育った長崎の街を見渡すことができるこの場所を、彼女はきっと気に入っているだろう。
ふたりの思い出も多いこの街はいつまでも変わらずに輝き続ける。
俺にはただ、眩しい。
あの頃と変わらない柔らかな風が、優しく頬を撫でた。
「…また、来るよ」