「昴さん」
背中を向けていても感じる。
揺るぎない黒を湛えた海司の瞳が強く俺を射抜く。
「あいつのこと、本気ですか」
抑揚のない静かな声はそれでも滲む色を隠さない。
強く耳に響いた理由など考えなくてもわかる。
愚問だからだ。
「本気だよ」
そう応えてから初めて振り返る。
鋭い眼光を真っ向から見返した。
「俺はあいつが欲しい」
自分に問いかけることはもうやめた。
理屈など必要ない。
ただ、求めるだけ。
「誰にも渡さない。お前にもな」
射抜く黒の激しさが増した。
両の拳が強く握られる。
それを見届けた俺は再び踵を返した。
響く靴音が伝えるのは確かな意志。
欲しいものはただひとつ。
自分以外は許さない。
迷いなく前を見つめ、静寂を後にした。