昴さんが私のアパートに到着したのはついさっきのこと。
本当は今夜は帰れる予定ではなかったのだけど、警護対象のスケジュール変更だかなんだかに伴って彼の勤務シフトも変更されたらしい。明日も午後からの出勤になって、つまり午前中はお休み。
日曜日である明日は私も授業なんて無いし、お昼までは二人でゆっくりと過ごせることになった。
突然のことだったけど会えて嬉しい。
予定入れてなくてよかったなとしみじみ思っていると、バスルームの扉を開く音が聞こえた。
昴さんがシャワーを終えたみたいだ。
「あーさっぱりした」
「……すっ昴さん…!!」
「あ?」
髪をタオルで拭きながらリビングに入ってきた彼は、上半身が裸だった。
身に付けているものはズボンとネックレスだけだ。
「服着てくださいっ!半分裸じゃないですかっ」
「何言ってんだ。見慣れてるだろーが」
み、見慣れてません!!
彼とはれっきとした恋人同士だけど、体を重ねたのはまだ数えるほどしかない。そのときは明かりだって消してるし。
そのまま裸で眠っても、それこそ朝起きた時なんて色々と恥ずかしくてまともに昴さん自体見れない。
だから見慣れてるわけがない。
恥ずかしくて彼の(半)裸体を直視できずに、つけっぱなしのバラエティ番組へと意識を追いやった。頬も熱い。
するといつの間にかリモコンを手にしていた昴さんが、プツンとテレビの電源をオフにした。部屋が静寂に包まれた次の瞬間、声を出す間もなく視界が反転する。
腰掛けていたソファに押し倒されたのだ。
「ああああっあのっ…」
「可愛いやつ」
昴さんはうろたえる私の右手を取ると自分の首筋へと導いた。
「ほら」
重ねた私の手を、自身の鎖骨へとゆっくり滑らせる。
「………!」
私の指先が昴さんの鎖骨をなぞる。
「なっ、は、離してくださいっ」
「駄目」
手にぐっと力が籠められた。
肌に触れていることが恥ずかしくて仕方ない。
何かを煽るようなゆっくりとした動きも、射抜くように熱い昴さんの視線も。
すごくドキドキする。
そうして拒否権の無い指先は胸元へ、一本の線を引くように滑らされた。
適度に鍛えられた胸元は男の色気を感じる。
私は何度この胸に信頼を預け、守られたのだろう。
「全部、お前のもんだから」
無駄な肉など一切ない、引き締まった腹筋。
自分とは違う硬い質感が逞しい。
なんか…クラクラしてきた。
妖艶というに相応しい腰のラインは雄の香りを放っていて。
ズボンのボタンは留められておらず、覗いているダークグレーのアンダーがいやらしい。
いつの間にか昴さんの手は離れ、彼の肌を辿るのは私の指先のみになっていた。
羞恥心は手放していないけど、私は彼の身体に夢中になっていた。
「First name。次はどうしたい?」
熱く甘く、けれど挑発するような色を湛えた瞳は逃げることを許さない。
抗うことなんてできない。
上がってしまった体温を誤魔化す術すら知らない私は少し躊躇したけど、おとなしく観念した。
彼の首にきゅっと腕を回し、耳元で小さく呟いた。
「……いい子だ」
こうして私たちは一晩かけて身体の隅々まで確かめ合うに至った。
彼にうまいこと乗せられた感は否めないし、何に対しても正直、慣れる日なんて来る気がしないけれど。
こんなに楽しく穏やかな日々がずっと続いていくのならそれでもいいかな。
なんて思いながら、裸の彼の腕の中で眠りに就いた。