隣に座る恋人の、端正な横顔を盗み見る。
すっきりと通った鼻梁に、シャープな輪郭。
固く結ばれた凛々しい口許。長い睫毛に縁取られたブラウンの瞳。
まるで彫刻のようなその美しさに、見とれない女性はきっといないだろうと思う。
見つめられるだけでドキドキしてしまう、鋭い眼差し。
そんな彼の瞳の寵愛を今、一心に受けているのは。
昴さんが真剣に読んでいるのは。
───私の愛読する下着通販カタログだった。
ページを捲る音が狭いリビングに響く。
昴さんは優雅に組んだ脚の上で下着カタログを開き、至極真剣な表情で見入っている。
流し読みするならまだしも、そんな風にじっくり読まれると余計に恥ずかしい。
私がお風呂から上がってきた時には、どこから見つけてきたのか昴さんは既にそれを手にしていた。
慌てて取り上げようとしたけれど「うるさい」の一声で争いは終了。大人しくソファに腰掛けて、いたたまれない思いをしている。
「First nameさ、下着いつもコレで買ってんの?」
「…まぁ、よく買いますけど」
「ふーん」
この居心地の悪さといったらない。
昴さんは恋人で、誰よりも私のことを知っているたった一人のひとだけど。一体なぜ下着の調達場所まで明かされなくてはならないのか。
公開処刑されているような気分だった。
「……ん?」
新たにページを捲った昴さんの動きが止まった。眉間に皺が寄り、みるみる顔が険しくなっていく。
「ど、どうしたんですか?」
昴さんの尋常でない様子に何事かと尋ねた。
「お前、まさかコレ買う気なんじゃないだろーな」
険を含んだ声でそう言いながらカタログを持ち上げ、開いていたページを私に見せた。
隅が折られていたそのページでは外国人モデルが笑顔を振り撒いている。
そのモデルが身に付けている下着が気に入って、ドッグイヤーしておいたのだ。
「あ、はい。シンプルで可愛いかなって思って…」
「却下」
「ええっ!?」
声を上げる私などお構いなしに、昴さんは折られていた隅を勝手に元の状態に戻した。
「却下って何ですか却下って!」
「地味」
ばっさりと切り捨てられた。
「前にも言ったけどな、お前の下着は色気に欠けるんだよ。もっと華やかなやつ選んだらどーなんだ」
「私はシンプルなのが好きなんです!第一、そんな派手なの似合わないってわかってますから」
ちょっとカチンときて、ぷいっと昴さんから顔を背ける。
けど同時に自分の吐いた台詞に悲しくもなった。
「華やかってのはディテールが女らしいっていう意味だ。そうだな、今見た中では…」
ページを捲る音が聞こえたあと、おい、と後頭部を小突かれた。
膨れっ面のまま振り返ると、昴さんが誌面をトントンと叩く。
「これだな」
昴さんがご指名したものは、シフォンベースにフリルがふんだんにあしらわれたベビーピンクの下着だった。
ブラとショーツそれぞれに付いたレースのリボンがポイントとなり、相当な甘口に仕上がっている。
まさにラブリーの一言に尽きる一品だった。
…や、やっぱり……
「繊細で品があるだろ」
昴さんはひとり満足気に頷くとそのページをドッグイヤーした。
「さっきのじゃなくてこれにしろ。きっと似合うから。な?」
綺麗に微笑んでみせて、私の頭を優しく撫でる。
ずるい。こんな風にされたら何も言い返せないじゃない。
悔し紛れに視線を外してみたが、私はやがて小さく頷いた。
「よし。じゃ、あとはサイズだな」
「サイズ?…きゃー!!」
笑みが意地の悪そうなものに変わった次の瞬間、昴さんは私のシャツの中に片手を突っ込んで。
裸の胸を掴んだ。
「ちょちょっと何するんですか…っ!」
「だからサイズ測ってやるって言ってんだろーが」
「そんなのいいですから!」
まさかの出来事に顔を真っ赤にして叫ぶ。
けど私の抵抗なんてもろともせず、昴さんは乳房をそのまま揉み始めた。
「昴さ…」
「胸、前より大きくなったよな」
手のひら全体で掬いあげるように愛撫される。敏感な先端を悪戯に撫でられて、ビクッと身体が震えた。
「感じやすくなったし?」
カタログをテーブルに置いた昴さんが、ゆっくりとのし掛かってくる。
私の脚の間に体を差し込んで、太ももを秘所に擦り付けてきた。
「せっかくだからな。身体検査でもするか」
「…っ、ひゃっ…!」
結局私は昴さんの監視下のもと、昴さんセレクトの下着を数点とフリフリのベビードールを注文することになった。
女の子らしいアイテムがたくさん揃うこの通販会社を気に入ったらしい昴さんは、季節ごとに送られてくるカタログを私よりも熟読するようになり。
やがて私のアンダーウェアは乙女一色になった。