どちらが束縛してるのか

 今日も彼は血塗れでやってくる。
 何故か? それは私に会いに来るためだ。

「トキ」

 彼が私の名を呼ぶ。それだけで身体中の血液が沸騰したかのような錯覚に陥り、口から血を吐きそうになる程の喜びを感じる。
 ゆっくりと焦らすように私の元へ歩みを進める彼を見る。
 いつもと同じ、服の色が何だったのか判らない程に、全身に返り血を浴びている。

「また、やったのか」

 私がそう尋ねると、ああ、と嬉しそうに彼は微笑んだ。

「あいつらが、お前に近付くから」

 ――つい、殺してしまった。
 そう云って彼は私の頬を撫でた。
 生臭い血の臭いでさえ、彼が私のためにやったことの結果だと思えば、それさえも愛おしくなってくる。

「アミバ」

 私が名前を呼ぶと、彼は私の胸へ縋り付くように抱き付いてきた。それをしっかりと受け止め、彼の髪を優しく撫でる。血でべっとり塗れているせいで触り心地は少し悪いが、それでも私は優しく、梳くように撫で続けた。

「トキ」

 彼が私の胸に埋めていた顔を上げ、少し上目遣いで私の名を呼んだ。

「何だ?」
「俺は、お前のことが好きだ」

 だから、お前の傍には俺だけ居れば良いだろ? と、彼は今にも泣き出しそうな、無理矢理作った笑みを私に向けた。
 そんな彼を見て、私は衝動的に彼の唇にキスをした。少し鉄の味がしたが、今の私にはそれさえも興奮材料にしかならない。
 唇を舌でノックすれば、彼はおずおずと唇を開いてくれる。その隙間から舌を伸ばし、彼の舌に絡めれば、応えるように私のものに擦り付いてくる。
 耳を犯すように響く淫猥な水音が、私を更に興奮させた。彼の身体を弄るように撫で回し、より深く口付けできるように抱き締める。すると彼は私の背中に手を回し、しがみ付くように服を掴んだ。
 くぐもった彼の喘ぐ声が、私だけを見つめる潤んだ眼が、必死に縋り付き私を愛してくれる彼が、全てがただただ愛おしい。
 ゆっくりと、名残惜しむように彼の唇を解放すると、互いの唾液が銀の糸をひいて、ぷつりと切れた。
 熱に浮かされたようにぼうっとしている彼の耳元へ顔を埋める。彼の髪に付いていた血が顔に付いたが、そんなことはどうでも良かった。

「アミバ。私はお前を愛しているよ」

 そう囁くと彼はふるふると震え、嗚咽混じりの声で何度も何度も私の名を呼んだ。
 嗚呼、何て可愛らしい。
 私のために、こんなことをして。
 私のために、こんなに汚れて。
 私のために、こんなに泣いて。
 私のために。
 私のために――。
 ――そう、私だけのために。

「私はお前だけのものだよ」

 ――お前は私だけのものだよ。

「絶対に逃げない」

 ――絶対に逃がさない。

「アミバ」

 ――そう。

「愛しているよ」

 ――永遠に。

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