欲望は形にしなきゃ

 殴り飛ばして蹴り付けて踏み躙って。
 その偽善者面に唾を吐きかけてやりたかった。
 今でも時々、そんな欲望に駆られる。
 だが今は――。

「アミバ」

 ベッドで横になっている顔面蒼白の馬鹿が、血を吐きながら俺を呼んでいる。
 動かすのもつらいだろうに、手をこちらへ伸ばしている始末。
 俺は仕方なく、その手を握ってやった。

「アミバ。私はもうすぐ死ぬのかな」
「かもな」
「死んだら、悲しんでくれるか?」
「さあな」
「なら――喜んでくれるか?」

 喜んでやるさ――そう云ってやりたかったのに。
 言葉が、出て来ない。

「喜んでくれないのか?」

 簡単な相槌すらも、出て来ない。

「期待、しても良いのか?」

 ――悲しんでくれると。
 そう云って笑う馬鹿の顔を、俺はまっすぐ見れなかった。






 殴り飛ばして蹴り付けて踏み躙って。
 その偽善者面に唾を吐きかけてやりたかった。
 今でも時々、そんな欲望に駆られる。
 だが今は――。


 ――今は、もういない。

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