可愛くてセクシーな




稀にフェティシズムというものを持ち合わせる人間がいる

身体の一部や衣服など様々な物品・現象に個性的な執着を見せ、はたまた性的興奮をするという


ミーはというと今までそんなモノは持ち合わせていないと思って居たのだが、ヴァリアーに入隊すると同時に出鼻を挫かれたのであった


「つっかれた〜」
「任務お疲れ様でーす」
「おいカエル、そう思うんだったらもっと王子を敬えよ」
「あっ、取らないで下さいよー」


談話室のテレビの前のソファーを陣取ってお菓子をパリパリ頬張りながら久しぶりの1日オフを満喫
ご満悦なミーに対してたった今帰って来たベル先輩は何となくご機嫌斜め

お菓子の袋を奪われた挙げ句美味くないとまで言われた
じゃあ喰うなよー


「どうしたんですか?ご機嫌斜めじゃないですかー」

「別に、王子がつまんねー上に面倒な任務して来たのにお前が1日オフとかありえねぇ、ついでに堂々と休んでる姿にイライラする…なんて思ってねぇから安心しろよ」

「うわー…めっちゃ恨んでるじゃないですか」
「なんで俺行かせたんだよ、あんな任務新米で十分だろ」「それだけボスに信頼されてるって事ですよー」
「ありえねぇだろそれ」


ミーが座るソファーの背もたれに腰掛けブツブツ文句を言う先輩

信頼なんてボスの口から出る訳ないしそんな事に全く興味がない先輩やミー達、ヴァリアーの幹部にとって『信頼』や『助け合い』なんて言葉は凄く薄っぺらいモノだ

ヘニョヘニョしたボンゴレのボス、栗毛のあの人はきっとそういう綺麗な言葉を大切にするんだろうが
生憎、うちにはそんなヤツが居る筈もなく毎日毎日怒鳴り声や爆発音、破壊音が鳴り響くアジトは淡泊と言うかなんと言うか…

必要以上に他人の心の領域に踏み込まないそんなような雰囲気が漂っている


「何飲んでんの?」
「っ、…え」


不意にソファーの後ろに居たベル先輩がテーブルに向けて腕を伸ばす
お目当てはコップの中の炭酸飲料なのだがベル先輩の唇が丁度耳の側に来て…

何これゾワゾワしますー


「んだよ気抜けてんじゃん」
「す、みませーん」
「…んだよ?」
「いや、別にー」


耳元で囁かれた呟きはミーが今まで思っているよりも色っぽくてとてつもない破壊力を持っていた
この堕王子、こんな声でしたっけー?


「んだよそれ、気になるから教えろ」
「嫌でーす」
「王子命令だから拒否権ねぇから」
「意味の分からない事抜かさないでくださーい」
「こんの糞ガエル…」


チッと舌打ちをして歪められたベル先輩の唇
プニプニしてそうで、それでも薄いそこから何故か視線が離せられない
そんな視線に気づいたらしい先輩は一度キョトンとした後何かに気づいた様な顔をしてからニヤリと笑った


「…なぁ」
「はいー」
「今キスしたいと思ったろ」
「はぁ?アンタどんだけ自意識過剰なんですかー」
「ししっ、言ってろ」
「ちょっ、近づかないでくださーい」
「逃げんな、王子とキス出来るなんて有り難く思えよ」


確信を持ったらしい先輩はもう何を言っても動揺もしなければ怒りもしないらしく形の良い唇はゆっくりと近づいて来て目の前に先輩の顔が来るととっさに目を瞑った


「っ…」
「……」
「え…?」
「…ビックリした?」


重なると思った唇はいつまでたってもくっつかなくて、瞼をゆっくり上げると閉じた瞬間と同じ位置で止まっていた先輩の顔が見えた
ミーをからかったのかこの堕王子


「うししっ、瞼閉じちゃって、可愛いトコあんじゃん」
「なっ、煩いっ、卑怯ですよー!」
「卑怯じゃねぇしっ」
「ニヤニヤすんな堕王子っ」
「堕王子じゃねぇし」


恥ずかしさのあまり視線が合わせらんなくて顔を背けながら言い合いを繰り返す
暫くの口バトルが繰り返された後、後ろから堕王子のため息が聞こえて
突然グイと顎を真上に上げられた


「何すっ、痛いで…」


チュッと今度こそ重ねられた唇は直ぐに離れていって頭が真っ白になるミーを堕王子は鼻で笑った


「何間抜けな顔してんだよ」
「っ…変態王子ー、キス魔、存在自体が18禁ー」
「言ってろ」


余裕たっぷりな先輩は帰って来た時とは打って変わって上機嫌で扉の方に足を運び始めた

なんだよコイツー
軽々しくキスすんなよ
結局誰でも良いのかよー

心の中で何度も何度も先輩に対する愚痴を繰り返して居るとふと先輩が足を止めてくるりと振り返って


「あ、言っとくけど、俺誰にだってする様なキス魔じゃねぇから」




…反則だろそれー





ちょっぴり頬を赤くする先輩にKO負けした瞬間だった




......

((何で26なのにあんなに可愛いんですかねー))




可愛くてセクシーな

(そんな貴方にノックアウト)




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