花のかんばせ




初めてその顔を見た時の事が今でも頭を離れない

いつも被っていたその襤褸布が脱げ、見えるその素顔
目の前の敵を見据える鋭い瞳
揺れ動く金の髪
切れた頬をから伝う紅さえ目を引かれた

山姥切国広は美しい刀なのではないか
そう思った






暇をもて余してフラフラと本丸内を歩いているといつのまにか広い庭先が見える縁側にたどり着き、
腰かけてボンヤリと庭を眺めていると気をきかせた燭台切がお茶と菓子を持ってきた
それによってまたその場所の居心地の良さに動けなくなっていると丁度山姥切国広が畑仕事から帰ってきた

ポンポンと隣を叩くと少し渋ったようにしていたが大人しく腰かける国広
そうすると内番が終わった事に気づいた短刀達が茶と手拭いを持ってくる
それを素直に受けとると、短くお礼の言葉を返して麦茶を飲むその白い喉に思わず見惚れていると



「…なんだ?」
「うむ、国広や…この爺の願い、聞いてはくれぬか?」
「断る」



願いと言った瞬間にその眉を寄せ、言い切ると直ぐに断られた
そんなにはっきり断らなくともよいであろう
せめて話を聞いてくれても、そう返そうとしても国広は聞く気もないらしく冷たい麦茶をまたひとのみするとふぅと小さく息を着いた



「畑の様子はどうだ?」
「どうって、見れば分かるだろ」
「生憎俺は畑仕事の方には回されなくてな」
「回されないって……、いや、分かった」



そういう事かと呟く国広に返す言葉もない
本丸に来た当初、内番の手伝いを頼まれた
馬の扱いは分かるものの、畑仕事というのは全くで
道具の使い方も分からなければ、野菜の植え方育て方も分からぬ
教えられ手伝いをしてみたが、なかなか上手くいかず、しまいには倒れる始末
主曰く仕事に夢中になって『だっすいしょう』だとか『ねっしゃびょう』になっていたらしい

そんな事があってからは殆んど畑仕事は任されず、
いつが最後だったか思い出すのも難しい位だ



「最近は『台風』だかの影響で雨が多いからか葉もの野菜の出来が悪いな」
「ふむ、確かに近頃は雨がよく降っているからな」
「けど、そろそろさつま芋が出来る頃だろ」

「芋か…それは楽しみだ」



他愛ない話をしていても、どうしても視線を外す事が出来ない
それに気づいているのだろう国広も特に何を言うでもなく話を続けるが、決して俺の顔は見なかった
目があったら何かされると思ってるのだろうか?
それでもその視線の外し方は極端すぎぬか?



「国広や」
「なんだ」
「どうかしたのか?」
「は?なんだ、急に…」

「先程から顔を逸らしているであろう?」
「こっ、これはアンタが…」
「ん?」
「…アンタ、分かってるだろ」
「すまぬ、よく分からぬ故この爺にも分かるようのきちんと教えてくれぬか?」



暫く俺を真っ直ぐに見据える瞳
それを笑みを作って見返せば、はぁと大きなため息をついた
これは国広が諦めた証拠
やっと俺の話を聞いてくれると気になったらしい



「…アンタこそなんなんだ、さっきから人の事をジロジロと」
「うむ、実はだな国広。お主の顔を、見せて欲しいのだ」
「…」



俺の言葉にピクリと震えた国広の体
何も言っては来ないが、言いたい事は分かる
国広から出るのは拒絶の言葉だ
こんぷれっくすを持ち、人と比べられる事を嫌がる国広

薄汚れた格好をしていれば誰も比べたりしないとよく言っている
その心の闇がどれ程か
俺は少しも理解出来ていないのかもしれないが
それでも…

無言の間が苦しくなって次の言葉を繋ごうとした時、コトンと静かに飲んでいた麦茶を縁側に置いた
そうして黙って立ち上がる国広
やはり怒らせてしまったか
今ならまだ大丈夫だろうと笑って冗談だと言おうと唇を開くとその瞳が真っ直ぐに見下ろして



「こい」
「…国広?」



「…見たいんだろ」







Back




「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -