永久の契り




「なぁ、三日月」
「なんだ鶴」
「君と小狐丸はやっぱりデキていたってことだよな?」

「…なんだ急に」



本丸へと戻り各々が手入れ部屋や自室へと戻っていく中、大して怪我を負っていない俺と鶴丸は二人並んで縁側に腰掛けていた。
一期の弟達は出来た子ばかりで腰掛けただけで汗を拭く為の手ぬぐいやお茶やらを持ってきてくれる。
受け取った手ぬぐいで汗を拭いていると不意に問いかけられた内容があまりにも唐突なものだった為間の抜けた顔をしてしまった。



「お主、先程狐の旦那と申したであろう、そうだと思って申したのではないのか?」
「あー、いや、すまん、君からそれなりの否定の言葉が返ってくると思っていたんだが、それがなかったから正直驚いてたんだ」



呆れた。
分かっていて口にしたのかと思っていたが、まさか適当に話していたとは。
それでも鶴丸らしい。
そう思ってプッと吹きだしてしまった。



「っ、ふ、はっはっはっ!鶴は、昔からそうだな…っ、ふ、ふふっ」
「…そんなに笑わなくてもいいじゃないか」
「ふふ…雛の時と変わらん」
「おいおい、流石に変わらないってことはないだろう」
「そうか?何も変わってないと思うのだが」
「君たまに結構きつい事を何でもないように言うよな」
「ん…?そうか?」



俺はそんなにきつい事を言っているだろうか。
全く心当たりが無いのに首をかしげていると鶴丸は『これだから爺さんは』と溜息をついた。
先程までとは変わって心がすっと軽くなった。
鶴丸には人を元気付ける才能があるのかも知れない。
呆れ顔の鶴丸に自然と頬を緩ませていると少し離れたところからバタバタと音が聞こえてきた。



「今剣か」
「おいおい、まだ姿も見えていないのに何で今剣だって分かるんだ」



本丸には多くの短刀達が居る、今剣と限らないだろうと話す鶴丸の言葉に重なるように騒がしい声がかっぶた。



「たいへんです!たいへんですよー!」
「どうした、今剣や」
「三日月っ、たいへんなんですよぅ!」
「ですからっ…たいへんなんです!」
「君さっきから大変しか言ってないぜ?」

「あるじさまがさっきてつだいだをつかったんです!」
「おっ、ということはレア4以上かい?」
「ちがうんです!もう、おそいですよ、はやくきてください!」



れあ4でも無いのに主が手伝い札を使った?
迎えていない刀は全て3時間20分以上のはず。
よく分からないと首を傾げていると少しおくれて石切丸や岩融がやってきた。



「がはははっ!今剣よそれでは伝わるまい」
「ですけどっ!」
「三日月、待ち人が来たみたいだよ」
「待ち人?」



分からずに首を傾げる、岩融や石切丸の後で着物の擦れる音がしてすっと、前に出た影。
一体なんだと顔を上げたところで固まった。



「何じゃ、意外と白状じゃな」
「あ…」
「私が居なくても楽しそうに見える」



鶴丸もその姿を捉えたのかヒューと口笛を吹く。
長く柔らかそうな白い毛並み、口元から見える犬歯と赤の瞳。
小狐丸だ。
ドクンと心臓が脈打って、言葉も出なかった。



「って、おいおい、三日月…ここは感動して飛びつく所じゃないのかい」
「いや、そうしたいのはやまやまなのだが…」
「なのだが、なんだい?」
「驚いて腰が抜けてしまった」
「はぁ?」

「爺じゃな」
「小狐とて爺であろうに」



呆れたように笑った後、そっと傍にしゃがんで抱き締めてくれる。
胸に顔を埋めればふわっと体に掛かる柔らかな髪、頬を寄せるとそのしっかりとした腕が頭を撫でてきた。



「爺の面倒は私が見ましょうぞ」
「素直に二人にさせて欲しいって言えば良いじゃないか」
「うるさいぞ、五条の小童が」
「ったく、三条はなんで皆して俺を子供扱いするかね」


不服そうに呟く鶴丸を石切丸が宥めながら去っていく。
その後を岩融と今剣が手を繋いで歩いていった。
そして俺のすぐ隣に…小狐丸。



「待ちくたびれたぞ」
「先程まで忘れておったろうに」
「…」
「まぁよい、待たせたのは事実じゃからな」



すっと伸びてきた手が頬を撫でる。
そっとあごを持ち上げられて唇が重なった。


やっといつかの約束通りまた共に荒れるのだと瞳が潤むのを何とか耐えつつしっかりとした体に縋り付いた。
願わくば、もう互いが離れてしまわないように…



......
(山の中に居るかと思ったぞ)

(『こぎつねコンコン やまのなか』と言うであろう)

(…こぎつね違いじゃ)


永久の契り

(朽ちるまで共に)


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