おむかえ





脳を揺さぶるような大きな音
銃口を向けられる事はこんなに恐ろしい事なのだと
暗い視界の中で思った








「あ、れ…?」
「ちっ…」



体に走るであろう激痛を身構えていた僕は、
いつまでもその感覚がこない事に間抜けな声をあげた
小さく舌打ちをした音と断続的に続く銃声
自分の意思とは無関係に左右に揺れる体
なんとなくヒンヤリとした感覚がして、ゆっくりと閉じていた瞼を開く
一番最初に飛び込んで来たのは、サラサラと揺れる白い髪

この状況で僕を助けてくれる人なんて一人しか思い付かなくて、
恐る恐る見上げると見慣れた横顔があった



「はじめ…君?」
「大丈夫か総司」
「えっと…髪…」



真っ赤な瞳に白い髪
こんな姿を見るのは初めてで、何て声をかけていいのか分からない
とりあえず何ともない事を伝えるべくコクンと首を縦に振ると、
一君はその瞳を左之さんへと向けた

左之さんと向かいあっていた筈の僕は、いつの間にか一君に抱えられるような形で側にあった木の上にいた
やっぱり一君の身体能力は伊達じゃない
ただ一君からいつもと違う雰囲気を感じて、そっと表情を覗く



「なかなか向こうの世界に行かないと思って来てみればこれか」
「おいおい、まさかずっと俺達の気配を追ってたのかよ」
「答える義理はない」
「たかが人間だろ?お前がそこまで面倒みる必要ねぇだろ」

「もうこれ以上アンタと話す事はない。失せろ…でなければ」



いつも無表情の一君
だけど今はいつもよりも冷たい瞳をしているように見えた
見下すような視線
僕を支えながらも前のめりになる体
一君が左之さんを敵とみなしたんだと
平和ボケしている僕でも分かった
左之さんも流石にマズイと思ったのかそれ以上は何も言わなくて、
最後に一度僕を睨みつけてから去っていった

ジッと左之さんが去った方に視線を向ける一君
まだピリピリとした空気を纏っている



「あのっ…は、じめ君?」
「…大丈夫か」
「助けてくれてありがとう」



僕がお礼を言うと、やっと緊張の糸が切れたのか
接していた体から力が抜けたのが分かった
白い髪と赤い瞳もゆっくりと元の色へと戻っていく

太い枝の上に腰を下ろし、僕の体を抱き抱えてくれる

いつもの一君だ

やっとそう感じられて全てを一君に預ける
フワリと僕の髪を細い指先が撫でる様に触って、
綺麗な瞳が細められた



「一君、僕の事心配してくれたんだ?」
「心配?」
「放っておけなかったんでしょ?」
「…あぁ」

「それに怒ってくれた」
「…」
「僕を殺そうとした左之さんを敵だって思ってくれた」



初めてあった時は凄く無機質な人だと思ったその心
少しずつでも心の奥に閉じ込めてあった感情を出してくれる事が嬉しい

一君はすごく優しくて、魅力的だ



「…総司」
「ん?」

「もう少し…共に居てくれるか?」
「…うん、いいよ」



ニッコリと口角を上げて返してあげると、一君暫く僕を黙って見つめてから
僕の真似をする様に笑った
満面の笑みには程遠いものだったけど、
一君らしい、綺麗な笑顔だった

思わずドクンと早まった胸の鼓動
不意打ちな笑顔に動じてしまったらしい
伝わってしまわないようにと体を離そうと僕が動くと、
落ちてしまうと思ったらしい一君がグイと引っ張って向かい合う形で僕の体を抱く



「…総司」
「なっ、なに?」
「鼓動が…早くなっている様だが」
「えっと…ほら、さっき銃向けられたから、まだ緊張しててっ」
「そうか…」



もう大丈夫だ
なんて透き通った声でいわれて、
頭を撫でられる
そのせいでドキドキと高鳴る胸も、一君は左之さんのせいだと思ってるみたいで、
ずっと撫でていてくれた

一君が感情について鈍感でよかった
男に笑いかけられてドキドキする男なんて気持ち悪いもん

胸の中でそう思いながら安堵した

視線を辺りへ向けると、いつの間にか明るくなり初めていて、
朝が近づいているのだと分かった

通りで眠い訳だよね

瞼を擦って欠伸を漏らすと、一君は伺うように覗き込んだ後、僕を抱き抱えて



「そろそろ日が出る。…帰るぞ」
「んっ…」



落ちてしまわない様に抱きいて頷く
一君はほんの少しだけ表情を緩めて、お城へと足を進めた




おむかえ

(帰ろう、僕らのお家に)



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