出逢い





それは性別を越えた
種族すらも越えた恋だった







「うわー、遅くなっちゃったよ…」



大学の帰り、仲のいい友人数名と居酒屋に行って飲み会をした
どんちゃん騒ぎの中に居るのも、悪い気はしなくて、何だかんだ最後まで居た
飲み会がお開きになって一人では帰れ無さそうな友人を自宅まで送り届け、
やっと帰路につく
その頃にはもう深夜一時を過ぎていて辺りは真っ暗だった

これ地元の飲み会だったからよかったけど、
場所が少し離れてたら帰れなかったかもしれないな



「帰って、お風呂はいって、さっさと寝よっ」



友人を送り届けたせいか、酒を飲んでいたのにやけに冴えてしまった頭で考えながら足を運ぶ
自動販売機の前に差し掛かった時だった

眩しいくらいの照明の先に、何かが倒れている
黒い塊は、猫等の小動物とは違ってもっと大きくて



「えっ…ちょっ、嘘っ!大丈夫!?」



それが何なのか、ハッキリと分かる距離になって、
慌てて駆け寄る
暗闇の先に倒れて居たのは男の子だった
顔が青白くなっていて、いかにも危険な感じがした
丸っきり意識がなくなってしまっているのか、呼び掛けに反応がない
体を揺すっても、ピクリとも動かなくて、死んでしまっているのかとも思った



「…とっ、とりあえず救急車っ!」



ポケットの中の携帯を引っ張り出して、救急車を呼ぼうとすると
ピクリと男の子の体が動く
死んで居なかった事に安堵して、その細い体を軽く揺すりながら
声をかけようと唇を開いた瞬間
パッとその瞳が開く澄んだ、でもその暗い瞳の色に魅せられていると、
チッと小さく舌打ちの音がして、フワッと自分の体重が軽くなった気がした












「あ…れ?ここ、どこ?」


間隔を開けてチカチカと光る街灯
暗闇では眩しい位に光っていた自動販売機の姿は何処にもない
辺りは鬱蒼と木々が生い茂っていて、
ここは森の奥深く、少し開けた場所の様に見えた
目の前には古い西洋のお城の様な建物があって、
その前に座り込んでいた僕
確か、倒れている男の子が目を覚まして、それから…


分からない



どうしてここに居るのか、どうやって来たのか
というかここは何処なのか



「あっ…そう言えばあの子っ!」



ハッとしてその姿を探すと建物に寄りかかる様な体制で俯いていた
駆け寄って様子を伺う

良かった、息はあるみたい
だけどさっきよりも辛そうな顔をしてる

このお城が誰のものかは分からないけれど、
一先ず休ませて貰った方が良さそうだ
男の子の腕を肩に回して、引っ張り起こす様にして立ち上がる
重たい扉を押すと、ギィィィと音を立てながらゆっくりと開いた



「すみませんっ、誰か居ますかー?」



薄暗い室内
声だけが反響した
反応を待っても、何の返答もない
もしかしたら、留守なのかもしれない
そう思っていると頭上からバサバサと音がして、思わずビクッと体が震えた
見上げるとそこには黒い翼を持った動物
コウモリ、みたいだ
キィキィと歯を剥き出しにして鳴いてる
僕を敵だと思っているのだろう

コウモリと遭遇するのなんて勿論初めてで、どうすれば良いのか戸惑って居ると



「…心配ない、少し…疲れただけだ」



低いけど何処と無く甘い声が耳元で響く
隣に視線を向けると男の子が目を醒ましていて
彼も僕に気が付いたらしく、一度目を丸くしてから僕の体を突き飛ばして後退した



「わっ…!」
「っ…」



それでも力が入らないのか、後ろに飛び退いた体を支える事が出来なかったらしく
グラッと傾いた体が床へと倒れ込む

駆け寄って様子を見ようとするとキッと僕を睨んできた


これだけ親切にしているのに、なんでこんな敵意を剥き出しにしてくるのか
胸の中は不満ばっかりだったのに、何故か彼を責める事が出来なかった



戸惑いと苦しみ、悲しみをたたえた様な瞳がとても印象的だった







出逢い

(どうしてそんな目をするの?)



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