幸せの形





自分自身が何よりも恐ろしかった
俺には大切だと思う相手すら自分と血肉へと変えよういう本能があるのだと
普段は内側に隠れるように潜んでいるそれが、まるで自分ではない者の様で

恐ろしかった







「んっ…やっぱりこれが一番美味しいっ」
「そうか?」




昔風間の元から逃げてきた彼女の為に植えた果物の木々
そこでなった果実を、総司は美味しそうに口に運んでいく
赤い果実を飲み込む度に上下に動くその白い喉元に心臓がドクンとと脈打った

ちがう、俺は総司を食べたい訳じゃない
食事として側に置いておきたいんじゃない
隣で笑っていて欲しい、側にいて欲しい
それだけの筈なのに
体が疼く
その首筋に歯を突き立てて、喉の乾きを潤したくて堪らなくなる

そうしているといつのまにか総司の瞳が俺の姿を真っ直ぐに捉えていて、いつも同じで台詞を言う



「おいで、一君っ…お腹すいたでしょ?」
「…あぁ」



空いている訳ではないのに総司の言葉に誘われるように動く体
自ら餌となる総司が何を考えてるか等容易に分かる
俺のことしか考えていないのだ
自分の事などは大抵後回し、怖くないのかと問いても

『一君は僕を殺したりしないでしょ』

と、返ってくる言葉はいつも同じだった


本当に総司は変わっている、人間を殺したことのある吸血鬼と自ら望んで共に居るなど正気の沙汰ではない
そして総司の優しさに甘えている俺も大概だと思った



「っ…」
「…んっ、痛い、か?」
「ちょっとだけ」



柔らかな耳朶に舌を這わせ、カプリと歯を立てると声を詰める音が耳に届く
いつから耳朶から吸うようになったのかは覚えていないが、
ここが一番落ち着くのだ
柔らかく、たとえ傷がついてしまったとしても目立たない
総司は吐息がくすぐったいと言うがこれだけは譲れなかった

ちゅうちゅうと音を立てて吸うとみるみるうちに赤くなる頬と耳
総司に教えられいつの間にか持ち合わせるようになった感情と今の感覚を照らし合わせる

可愛い、そして



「総司…っ、はぁ、好いている」
「んっ…僕も、大好きだよ」
「本当にずっと…共にいてくれるのか?」
「当然、一君がもういらないって言っても離れてあげないから」



そっと唇を離して顔を伺うとまだ赤い頬のまま笑った
そんなことはおこるはずがないのだが、
それでもいつも総司はそう言う
頼まれても離れてやらない

俺はもう、総司がいないと生きてゆけないだろう
温もりを知ってしまった今、心地よい場所を抜ける事など出来るわけがない
総司の言葉からも同じような事を読み取れるような気がして、自然と頬が緩んだ

互いが互いを縛り付ける
そんな歪ともとれるこの関係が堪らなく幸せに感じる
俺の中に眠る本能にすら両手を広げて受け止めてくれるの総司
そんな総司にしてやれる事は幸せにしてやることだけだと分かってはいるが、
やっと最近幸せを理解できたばかりの俺には少し高いハードルだ



「総司」
「…なにー?」



甘い血液を吸って落ち着きを取り戻した後も互いの体を寄せあわせたままソファーで寛ぐ
分からないのならば聞いた方が早い
総司は思っている事は口にしてくれるタイプだから一人で悩んでいるよりいいだろうと思った



「俺と共に居てくれるのなら、俺の生涯をかけてアンタを幸せにしてやりたい」
「え?」
「総司にとっての幸せはなんだ?」

「っ…本当、無自覚って怖いよね」
「なんの話だ?」

「一君がそうやって一生をかけて僕の幸せを考えてくれるの事が、僕にとっての幸せだよ」

「考えること?」
「そう、一君の幸せは?」



幸せ
心が満たされ、他には何も要らないと思える事
考える間でもなく、直ぐに浮かんできた答え
それを総司に伝えてやると総司はまた頬を赤く染めらながら、
でも先程とは違う温かな笑みを浮かべて分かったと答えた




総司が隣で笑っていてくれること
それが俺の幸せだ






幸せの形

(例え歪だとしてもそれが幸せの形)



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