守りたいと思うモノ





総司が教えてくれた感情

嬉しい、悲しい、寂しい、楽しい
それはずっと俺の中にあったものだったのだと、
言われるまで気付かなかった

日々共に過ごす時間の中で、アイツはよく笑う
何がそんなに『楽しい』のか、よく分からない
だが総司が笑って居るのは悪くない気がした







「一君、お腹空いてない?」
「大丈夫だ」
「遠慮しないで言ってくれていいから」



俺を気にけるように、覗き込む顔
これは『心配』しているんだろう
思い返してみても、左之に総司を任せたあの時
なんだかジッとしていられなかった
何故総司がこんなに『心配』してくるのか
総司を『心配』してしまうのかまでは分からない

長い間独りで居た時間が長く理解出来なかった感情
氷を溶かしていくかの様に、総司は俺の中の感情をゆっくりと引き出していった


「ねぇねぇ、僕、一君についてもっと詳しく知りたい」
「何故?」
「親しい人だから」
「親しい?」
「僕の世界の話、沢山したでしょ?だから一君の話聞きたい」



話をしたというか一方的に話しただけであろう
何を話せば良いのか分からない
何も言わない俺を助ける様に、総司が両親の話を振ってきた
総司の両親は早くに亡くなったそうだが



「アンタと同じだ。よく覚えていない」



幼い頃にハンターに狩られ、記憶に残るのは差し伸べられた手だけ
本当はもっと何かしてもらったのだろうが、色褪せてしまったようで、
ズキリと胸が傷んだ

『寂しい』

気まずそうな顔をする総司に、何か他の事をと考えても中々出て来なかった

独りで居た俺に何か話してやれる事などあるのだろうか

パッと左之の事が浮かんだが、直ぐに消えていく
アイツの話はしたくないし、するべきではない
総司は殺されそうになったのだ
わざわざそれを思い出させる必要はない



「恋は…した事ある?」
「恋?」

「見つめるだけでドキドキしたり、妙に気になったり、
ずっと一緒に居たいって思える人は居た?」



共に居たいと思った…
思い出すまでもなく浮かんできた存在
胸が酷く締め付けられる
いつまでも消えることのない映像が目の前に突き出されたようだった

あれがいつの頃の事か
随分昔の事なのか、最近の事なのか
頭には鮮明に残っている
この感情は何なのだろうか
なんとも言えない胸の痛み
苦しくて、目頭が熱くなる感覚



「一君?」
「…」
「…話したくないなら、無理にしなくてもいいよ?」
「…すまん」



温かい笑みを向けてくれる総司
少しだけ苦しさが楽になった気がする
首を縦に振って答えると、サラサラと頭を撫でてきた
触れる肌の温もりが温かくて、また目頭が熱くなってくる
総司が心配するであろう事は容易に想像出来た
たがら顔を見られてしまう前にギュッとその体を抱きしめる

耳元で息をつめる音と、腕の中の体が小さく震えた
何かしてしまっただろうか?

ゆっくりと体を解放してやると困った様な笑顔で



「突然抱きしめてくるからビックリしちゃった」

「ビックリ…あぁ、すまん」



今度は驚かせてしまわないようにそっと抱きしめる
そうすると総司もまた腕を回してきて、
優しく背中を撫でてくれた

他者の『優しさ』に微睡むのは、とても心地が良くて安心できる
でも同時に込み上げてくる沢山の感情
それに飲み込まれてしまいそうで、助けて欲しくて
でも言葉では上手く伝えられなくて、ただ抱きしめるしか出来なかった



「大丈夫、大丈夫だよ」
「…」



子供をあやすような声色
そっと覗き込んでくる慈しむような瞳が擽ったくて、
その白い首筋にカプリと噛みついた
別に腹が空いている訳ではない
首筋から香る甘い血の匂いにあてられた訳でもない
ほんの少し痕が残る程度に軽く噛みついた



「ふふふ…一君って以外と甘えたなんだね」
「…」



俺は甘くなどない
甘いのはアンタの血液であろう

内心で呟きながらも総司を離してしまうのは嫌で、
ただ首元に顔を埋めていた




守りたいと思うモノ

(失いたくないそう思う事が可笑しいのか)



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