疲れた
今日は本当に疲れた
寝坊するし、カップ麺で舌火傷するし
せっかく作った教室の飾り忘れるし
急いで取りに戻ったのに一君もう居ないし
ギリギリ間に合ったのに早く来てた子供達に見つかってからかわれるし
散々な一日だった
重たい溜息をつきながら家の鍵を開けてドアを引く
ガチャンという大きな音と開かない扉にハッとしてまた溜息をついた
やっちゃった
一君が居るんだから鍵あいてるんだった
もう一度鍵を穴に入れようとした時、カチャッと音がして扉が開いた
中からはいつもと違う温かい光と匂い扉から顔を覗かせた一君は
「わざわざ一度鍵を閉めたのか?」
「違っ…癖なんだから仕方ないじゃない」
ムッとしながら言葉を返しても一君はシレッとした顔をしていてやっぱり可愛くなかった
イラつきながら靴を脱いで中に入ると良い匂いがしてきた
目を丸くする僕に一君は僕がまだ一、二回しか使った事のない炊飯器で炊いたご飯をお茶碗によそいながら振り返った
「俺が作ったので良ければメシが出来てる」
「…作ってくれたの?」
「アンタが言ったんだろ、嫌なら自分でなんとかしろと」
いや、確かに言ったのは僕なんだけどさ
まさか作ってくれるなんて思っていなかった訳で…
困惑しながらもショルダーバックを置いて流し台で手を洗って戻ってくるとローテーブルの上はいつになく賑やかだった
肉じゃがに豆腐サラダ、たまごスープ
こんなちゃんとした食事しばらくぶりだ
「…これ全部、一君が?」
「当然だ、俺以外に誰が居る」
「すごっ」
「普通だ」
「いや、凄いよ、こんな豪勢なご飯久しぶりっ」
「…大袈裟な奴だな」
照れた様にほんの少し頬を染めながら顔をそらす一君
三日間変化に乏しかった顔は僕の知らない表情を見せてくれた
へぇ、そういう可愛い顔するんだね、一君も
心の中で呟いて、小さく笑っていると、一君はハッとした様な顔をしてまた少し赤くなっている
不思議に思いながらもきっと頃合いを見て温め直してくれたのであろう肉じゃがやたまごスープを見ると自然にお腹がなって、少しの間を開けてお互い顔を見合わせて笑った
「食べるとするか」
「そうだね」
ローテーブルに向かい合って座って『いただきます』をした
なんだかんだイライラして昨日も今日もろくに顔を合わせないで食べてたから向かい合って食べるのはちょっと擽ったい気がした
誰かとこうして食べるのも随分久しぶりだ
お茶碗を片手にホクホクとしたじゃがいもを口に運ぶと程よく味が染み込んでいて
「っ、おいしい!なにこれ、一君天才」
「ほ…本当、大袈裟…だな」
「いや、ホントおいしいって」
「…口にあったなら良かった」
その後一君は少し俯いてご飯を口に運んで居たけれど、髪の隙間からほんのり染まった頬が見えた褒められ慣れてないのかな?
そう思いながらまた肉じゃがを口に運ぶとズキッとした痛みが走って思わずまゆをよせた
「っ!」
「総司?」
「ほら、朝急いでたじゃない?そしたら舌、火傷しちゃって」
「っ…」
顔を覗き込んできた一君に事情を話してしたを出して見せる
それを見た一君は何故か驚いた様な表情をして顔を逸らした
あれ、どうしたんだろう?
でもそんな一君の態度より今は美味しいご飯を食べたかった僕がまた箸を動かそうとすると
「そっ…総司、もう一度、舌を見せてはくれぬか?」
「えっ?」
「火傷は…酷いとマズイらしいからな」
そうなのかな?
いつのまにか隣に来て僕の肩にしっかりと手を置く一君はボソボソそう言って薄い下唇を噛み締めていた
なんだか今日は初めての顔をいっぱい見る
「うん、いいよ」
そう思いながら舌を出したこの時の僕は
料理が出来て気がつかえる、女の子みたいな一面を持った一君のまた違う顔を見せられるとは
そしてまさか自分あんな目にあうとは
思ってもいなかった