未来地図





時が経つのは早いもので、俺が総司のもとに来て、そろそろ一ヶ月が経とうとしている
もう何度めかの進路希望用紙を見つめながら、ボンヤリ考えた

前に同じモノを書いた時は、マンションの一室で殆ど一人暮らしに近い生活をして居た
特に誰と話す事も無く、ただ学校と家を往復するだけの日々
それが無機質なモノだとも気付かずに過ごしていた

でも今は違う
兄弟の大切さを知って
恋をする事、愛する事、嫉妬という醜い感情
笑い方、泣き方



「全部、アンタに教えられた」



紙から目を離し、まだ傍で眠る総司を見つめる
安心し切った寝顔になんとも言えない感情が溢れてきて止まらない

好きだ
愛している

そんな言葉では表しきれない
どうしたらこの気持を全てそうじに伝えられるのか
その方法はまだ分からないが
これからまた時間をかけて理解していくモノなのだろう



「それにしても…どうするか」



大概の奴は大学に進学したり、専門学校に行くのだろう
だが、今の状態ではなんとなく行きにくい
進学するとなったら、両親のそばの学校にしろと言われるかもしれない
そうなったら総司と離れてしまう
それは絶対に嫌だ
就職するにしても、高卒で何が出来る
人と関わる仕事は俺には向いていないであろうし
だからって専門知識があるって訳ではない

今まで何をする訳でもなく、ただ無機質に毎日を過ごしてきた俺には、何もない
だからこそ今、何かを手に入れる為に、踏み出さなければいけない訳なのだが…



「何みてるのー?」
「っ!!」
「…ふふっ、一君がビックリした」
「…俺とて驚く事ぐらいある」
「初めて見た」



突然声をかけられて、体を振るわせた姿を見たらしい総司は、嬉しそうに笑った
まだ少し眠たそうにする仕草が愛らしい
ハネていた髪を優しく撫でて直してやる
総司の笑顔を見るだけで、いっぱいいっぱいになっていた心に、少しの隙間が出来たのが分かった
俺はアンタに助けられてばかりだな

後ろから抱きつく様にして、俺の手元を覗き込んできた総司にも見える様してやる
少しの間を置いて、ふふっと笑う声が聞こえた



「進路希望かー」
「アンタは簡単に決まったのか?」

「僕?僕はね、そんな紙、飛行機にして教室の窓から飛ばしちゃったよ」

「…なに?」
「だって、未来なんて分からないもん。先の事考えて悩むの嫌だったし」
「アンタらしいな」
「それに前ばかり見て歩いて居ると、足元の小さな石でも躓いちゃうからね」



前ばかり見ていると…か
だが紙飛行機にするなど、俺には出来ん
提出は必須であるし、進路を決めなくては…
また考えだした俺を見て、少し呆れた様に総司が笑った



「一君は真面目過ぎだよ」
「だが…」
「…もうっ、それでもダメなら、そうだな…」
「…」
「主婦、とかどう?」
「は?」
「だから、主婦。家の事やっててよ、僕が稼いでくるから」



だが、それではおれはまた総司に甘える事になってしまう
俺の言いたい事が分かったらしい総司は、ギュッと腕に力を入れて俺の背に頬を寄せた



「一君と離れるのはいやだし、少しでも長く一緒に居たい。家の事は今みたいに全部は一君がする事になっちゃうけど…頼っていい?」

「…総司」



俺の事を考えて、思っていた事を全部言ってくれた総司
何にもない俺に出来る事は、総司に旨い飯を作ってやる事、か

体を反転させて、総司を抱きしめる返してやる
本当に、総司は俺に色々な事を教えてくれる
そんな選択肢があったのだな
他の誰でもない、総司の為だけに生きる
そんな未来が泣きたい位に輝いて見えた



「…勿論だ」



もっともっと頼って欲しい
あんたが俺に沢山のモノを与えてれた様に、
俺もアンタに沢山のモノを与えたい
そういう思いが伝わる様にそっと唇を重ねた

これから先も俺達には色々な事が起こるだろう
壁にぶつかり、闇にのまれ、時に互いを傷つけ合う
きっと普通の恋人達よりも何倍も
それでももう、俺達は離れるコトなど出来ないから
小さな幸せを少しずつ積み重ねて生きていきたい
誰よりも愛しいアンタと二人で…


そうして俺はまだ名前しか書いていなかった進路希望用紙と言うみらいの地図に、行き先を書き加えた






『主夫』と



未来地図

(きっと一番幸せな何かが待ってる)



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