キタナイはキレイ





数日ぶりの幼稚園は凄く疲れた子供たちは最初こそ心配した様な言葉をくれたけど、僕が元気になったと分かったら態度が一変
普段の何倍もの勢いで連れ回された
休みの分のツケがまわったみたいだった

体はもうクタクタだったけれど早足で帰宅した

家の扉をがチャッっと勢いよく開ける
中からはいつもの美味しそうな匂いがした


「たっだいまー、一君、アイス食べない、アイス」
「おかえり…と言うか帰って来て早々何なんだアンタは」



元気になった途端騒がしい奴だ
なんて冷たい言葉を言いながらも、一君は優しく笑い掛けてくれる
僕が突き出したビニール袋を受け取ってから、チュッと唇を一瞬だけ重ねてくれた
おかえりなさいのチュー
唇から好きだって気持ちが伝わってくるみたい

一君に続いて部屋の中に入っていくと、冷んやりしたとした空気が体を包んだ
ショルダーバックを投げてクッションに座る
一君から渡された苺味のアイスカップとスプーンを受け取って、早速フタを開けた

ここ暫くで一君の事も大分分かった
一君は甘いモノはあまり食べないらしい
だから一君のアイスは宇治抹茶味にした
僕の配慮が分かったらしい一君は、小さく笑ってから僕を見た



「んっ、冷たくて美味しい」
「少し溶けてしまっているな」
「外、まだ暑かったから」
「…大丈夫だったか?」
「へーきだよ」



病み上がりの僕が心配なのか、そっと顔を覗き込んでくる一君
淡いピンク色をしたアイスを口に運びながら笑って見せた
それでもまだ納得がいかないらしい一君は、僕の額に手を添えて熱を図る

平気だって言ってるのに
まるで僕を信用していない様な態度に、思わずムッとした



「…なんだ?」
「へーきだって言ってる」
「アンタ、辛くても笑って誤魔化す時あるだろ」


念の為だ
そう言って熱を計る為に掻き分けた事によって乱れた前髪をなおしてくれた
今に始まった事じゃないけど、一君は大人びてて、しっかり者で、かっこ良くて、その上家事も出来て、頭も良くて
なんか
なんだか…



「…くやしい」
「は?どうした急に」
「なんでもないですー」
「…明らかに怒ってるだろ」
「別に」
「総司」
「なにさ」
「言ってくれないと分からん」

「一君なんて大嫌いだよ」
「なに」
「年下の癖に生意気だし、頭かたいし、可愛げないし、ムッツリだし」
「なっ、ムッツリなどではない」

「口煩いし、心配性だし背低いし、エッチだし」
「っ…」

「でも、優しくて温かくて、安心する」
「総司…」
「愛してるよ…心から」
「…俺もだ、俺も愛している」



ほんの少しだけ瞳が潤んで見えるのは気のせいかな?
チュッと目尻に唇を寄せると、一君嬉しそうに頬を緩めた
ズルい
かっこいいのに、そんな可愛い顔も出来るんだね僕の心をガッチリ掴んで離してくれない
泥沼に沈んでいくみたいだ
でも不思議と悪い気がしない
一君そう思ってくれてると嬉しいな

お互いに少しずつ汚しあって、最期にはどっちがどっちなのか分からなくなる程
二人で一つになれたらいいのに

僕達以外いなくなっちゃえば誰にも何も言われないのに



「でも…そしたら二人でアイス食べられなくなっちゃうな」
「…何の話だ?」
「ううん、独り言だよ」


こんな来たない事考えてたなんて言えないな
始まったは汚したくない
キレイなモノはキレイ
汚いモノは汚い真っ直ぐにそう言える一君の瞳だけは、汚してしまいたくない

でも僕がキレイだってアイスおもったモノを、キレイだって思って貰えたら
同じモノを同じ様に見て、感じて貰えたら
そう、ちょっとでも思ってしまっている僕は、矛盾だらけで
色んな色の絵の具を、グチャグチャに混ぜたみたいな存在で



「僕が一番、側に居ちゃいけないんだろうな」
「総司?」

「でも…ごめんね、離れてあげられそうにないや」
「…ふっ、俺も同感だ」



また少し溶けてしまったアイスを口に運びながら笑った
空にはバナナ味のアイスカップみたいな月と、金平糖みたいな星が少し

甘すぎる夜もたまには良いかもしれない
そう思いながら一君の肩に頭を預けた



「ねぇ一君、もっと甘いデザート、食べたくない?」







キタナイはキレイ

(捻くれてるなんて、言わないでね)



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