学校が楽しいと思ったのは初めてだった
元来体が弱い僕は小・中学校共に毎日学校に通う事は出来なくて、高校に至っては入学して早々入院騒動になってしまった
だから当然なんだけど友達は中々出来なくてたまに学校に行ってもひとりで過ごした
でも別に寂しいとも感じなかったし、慣れていたからどうとも思わなかった
転校先の新しい担任の土方先生は挨拶に行った時は凄く驚いた顔をしていて、今までの経緯を話すと何かと僕の体を心配してくれた
初登校の日には校門で一君に逢った
彼も土方先生と同じ様な反応をしていたけれど話によると僕によく似た知り合いが居るとかなんとか
クラスで自己紹介した時には平助まで驚いた顔をしていて、3人共通の知り合いにそんなに似ているのかと思うと同じ名前で似た顔の『総司』さんに逢いたいと思った
クラスの人達は興味本位で僕の周りに集まって来て、その中心で平助と一緒になって話しながらも気になる存在があった
窓際で1人、静かに本を読む一君
無表情な彼は何とも言えない美しさと強さを秘めたような顔つきで凛とした雰囲気を纏っていた
僕を構ってくれて、面倒を見ようとしてくれる子は沢山居たけど何となく一君が良かった僕は隣の席だからという理由で彼に頼った
彼の1つ1つが何故か面白くてつい意地悪をした
転校初日から授業中に堂々と居眠りをして見せる
すると真面目な彼は度々僕に声を掛けては頭を抱えた
そうして居眠りをする僕に視線を向けてはシャーペンを強く握って瞳を燃やす
正直、今回の転校は家族が度々騒動を起こす僕を遠ざけて関わりを薄くしようとしたからだったけれど
それも別に悪くないし、こんな楽しい学校生活が送れるのなら寧ろ感謝すらしようと思った
そして時々気になるのは彼の視線
一君はたまに凄く寂しそうな、悲しそうな視線で僕を見つめていた
どうしたのか聞いても『何でもない、大丈夫だ』と口にするだけ
そう言われたら僕はもうそれ以上の事は聞けなかった
そして、昨日の晩
一君が泣いた
『笑って』僕がそう声を掛けると彼は少しだけ驚いた様な顔をしてから静かに涙を流した
その涙がどんな意味を持つものなのか、出逢ったばかりの僕には分からないけれど彼をこうして泣かせている人物に苛立ちを感じて兎に角『大丈夫だから』と声を掛けてあやそうとしたけれど声をかける度に彼の瞳からはポロポロと雫がこぼれ落ちた
彼の泣く姿が妙に綺麗に見えて、でもこれ以上泣かせたくなくて流れて来た雫を指先で掬いあげた
それまで退屈な毎日をただ適当に過ごしていた僕は
17歳の冬、一君との出逢いがそれまでの日々をひっくり返すだけの力を持っていなんて
その時の僕はまだ知らなかった
ホントは憧れてました。
(誰かと一緒に笑い合える毎日に…)