年の初めの贈り物





年が明けた
ひんやりとした空気は昨日と全く変わらないのに、窓の外からは賑やかな声が聞こえてくる
これから初詣へと向かうのであろう声は時間を追うごとに増えていった
何一つ変わらないとすら思える程の毎日も少しずつでも確実に変わっている



「初詣、か…」



呟いた言葉、吐き出された息が白く染まる
冷え切った部屋を暖めるべくストーブの火をつけた
本来は実家に顔を出そうと思っていたのだがここ数日の事が引っかかり気が乗らない
明日でもかまわないだろう今日はゆっくり過ごそう
そう心に決めてカーテンを開ける
差し込んできた太陽の光の眩しさに目を細めた時だった


ピンポーン


部屋に響くチャイムの音
元旦そうそうの来客に少し嫌悪感を抱きつつスエット姿のままで玄関の扉を開けた
昨年の元日は平助と共に過ごしたし、今年もまた下らないボードゲームやパーティーグッズを山程持って来たのだろう
そう思って顔を上げると



「明けましておめでとう、一君」
「…おめでとう」
「今年もよろしくね」
「…宜しく頼む」
「入っていい?」
「…ああ」



あっさりと会話を交わした後、俺の脇を通り抜ける男はここ数日間俺が悩んでいた事に深く関わる人物
何事もなかったかの様に部屋に入っていく後ろ姿に唖然とする
立ち尽くしたままの状態で固まる俺を見て不思議そうな顔をした



「どうしたの?そこじゃ寒いでしょ?」
「…何故」
「何が?」
「俺は…あんたを」
「…僕は君をそういう風には見れない」
「…」
「でも僕は友人として…一君を支えていきたいと思うから」
「…友、人」
「うん、だから…この間の事は無かった事にしよう。それが一番だと思う」
「…分かった、これからも宜しく頼む、総司」
「こちらこそ、一君っ」



はっきりと総司の気持ちを聞けてスッとした
これからはもう『総司』への恋心を引きずらず真っ直ぐ総司と向き合える気がした
例え総司の愛情を一身に受けるのが俺じゃなくとも『支えたい』と思える存在になれている
支え支えられる、頼り頼られる
そんな関係は簡単には作れないのだから

一足先に部屋に入っていた総司の隣に座りビニール袋から出てくるモノを覗き込む
炭酸飲料に緑茶、お菓子にさきいか、トランプにボードゲーム
やはり昨年と同じ宴会の様な元日になるのかと一瞬で察し思わず笑ってしまった



「今年もまたこうなったのか」
「ん?去年もこうだったの?」
「平助と二人でな」
「そうなんだ、平助が持って行ったら一君が喜ぶからって渡されたんだけどさ」



総司が笑いながら差し出してくるそれは昨年の元日、俺と平助が作ったすごろく
ひとますずつ交互に内容を書いて作成したモノだ
最初提案された時はまた馬鹿な事を言いただしたと思ったのだがやってみたら意外と面白くまた来年も新しく作ってやろうと約束したのをよく憶えてる
懐かしさに思わず頬を緩めながら文字を指でなぞる
今年は総司を含めて三人だ
きっとまたいい思い出になるだろう



「平助がごめんって言ってたよ」
「…何がだ?」
「あれ、まだメール見てないの?」
「メール?」



総司に言われて携帯を確認すると確かに少し前に平助からメールが入っていて平助らしくない
少しかしこまった文で謝罪の言葉が書かれていた



「今年は家族と遠くに居る親戚の人の所に行くらしくて」
「…」
「ごめんって」
「そうか、それなら仕方が無いだろう、こんな風に謝る程の事ではないのだがな」
「まぁこうする事で平助の気も晴れるんだろうから」
「…それもそうか」
「あ、そう言えばさ、一君」
「なんだ?」


「誕生日、おめでとう」


「なっ…何故、それを…」



「だって平助に…あ、平助には聞いてないか」
「土方先生か?」
「まさかっ、僕があの人に聞くと思う?」
「思わん」
「でしょう?」
「ならば何故…」

「…あれ、何でだろう?」
「…」
「でもまあ間違ってないならいいじゃない」
「しかし…」
「ほら、今日はパーっとやろうよっ」

「…あぁ、そうだな」



総司に促されキッチンにコップを取りに行く
ああ言いながらも総司もやはり気になるらしくキッチンから顔を盗み見すると不思議そうな顔をしていた
きっとこれは総司に友人宣言された俺に対しての『総司』からのプレゼントだろうと
そう思う事いして小さな声で呟いてからコップを持って総司の元に戻った



「感謝する、『総司』」








「『三回回って「ワン」と言う』っと」

「…まさかとは思うが今年のすごろくの目か?」
「そうだよ、よく分かったね」









年の初めの贈り物

(言葉の中に愛しい人の温もりを感じた)



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