複雑に絡まった





一君からメールが来た
タイトルも本文も添付ファイルすらない、俗に言う空メールとういうやつ
でも、何となく彼がしたかった事が分かった
多分謝りたかったのだろう

一君から告白されたのは何日か前のこと
僕の胸に顔を埋めて静かに言った

『ずっと昔から、今まで…アンタが好きだ。愛してる』




一君は僕と居るとよく泣く
声を上げる訳では無く、ただただ涙を流す
本人すら無自覚な綺麗な涙
最初は一君をこうして泣かせている人物に無性に腹が立った
でも一緒に居る事で気付かされた
一君を泣かせているのは他の誰でも無い、僕自身
だからって泣かせてしまった原因が全く思い浮かばない
何も言ってあげる事も出来なくて、ただ髪を撫でてあげるだけの僕
そんな僕に安心した様に体を預ける一君を支えてあげたいと思った

そしてそれは恋人としてでは無くて友達として
僕は確かに一君の喜ぶ姿を見ると嬉しくなるし、彼の泣く姿は見たくない
でも僕には男色の気は無い

付き合うならやっぱり女の子がいいし
小柄で礼儀正しくて自分の意思をしっかり持った子
薔薇とかそんな綺麗で豪華な花じゃ無くて、野に咲く花のような、平凡だけど力強い
そんな子が好き

心の奥底から沸き上がってきたのであろう気持ちを伝えてきた一君
深い愛情を感じなかった訳では無いけれど、正直引いた
彼はいつから僕をそんな目で見ていたのか



「ずっと昔って、いつから?」



たった数週間前に出逢って仮にその時一目惚れしたとしてもそれを『ずっと昔』なんて言うのかな?
言う訳ないよね
なら一君はいつから僕の事を知っていて僕の事が好きなんだろう
思い出してみてもやっぱり心当たりなんかある筈もなくてただモヤモヤとしたものだけが心に残った

そういえば平助や土方先生と共通で僕とよく似た知り合いが居るみたいだったけど
彼が『ずっと昔から好きだった』のは僕ではなくて僕によく似たその人であの言葉も僕に向けたものなんかじゃなくて、
僕に重ねたその人への言葉なのかもしれない
僕を通して僕の向こうに見えた人をずっと想い続けているのかもしれない



「…なんかそれはそれでムカつくかも」



矛盾した僕の心
グチャグチャに中を荒らされて団子結びでもされてるみたい
きっと混乱してるんだ
男の人に告白されるなんて初めての事だもの


そう自分自身に言い聞かせて嫌な締め付け感を憶える胸を軽く押さえる




そんな年の瀬の夜でした







複雑に絡まった

(でも一君、今回の事は許してあげるから安心して)






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