憂鬱な冬休み





終業式当日、式があるからか皆普段より制服をかっちりと着ている
が、俺はいつもと変わらない
そんな中、特に違う栗毛の人物が目に入って思わず声を掛けた



「どうした総司?」
「ん?あぁ、一君おはよう」



いつもとは違い制服の上にコートだけでなくマフラーまで巻いている総司
総司はよく寒々しい格好をしている
昔も胸元を大きく開けていたし、寒い今の時期ですら何処か寒々しい格好をしているのだが今日はいつになく暖かそうだ

問いかけに対して笑いながら挨拶をしつつ口まで覆ったマフラーをとった下にはマスクがつけられていた
困った様に眉を下げながら『風邪ひいちゃったみたいで』と言いながら鞄を机の脇に掛けた



「風邪…だと?」
「うん、っ…ゲホッゲホッ」



マスクの上から口元を軽く抑え苦しげに咳き込む総司
制服を着ている筈の総司の姿が着物を纏っていたあの時の姿に被る
ドクンと大きく心臓が脈打って思わず声を荒らげた



「っ…総司っ、本当に風邪なのかっ?医者に掛かって安静にしていた方がいい!」
「え…いや、大丈っゴホッ…夫だよ?」
「アンタはいつもそう嘘をつくっ、良いから来いっ、土方先生に話して今日は帰った方がいいっ」

「は、一君っ!!」
「なんだ?」
「大丈夫だから、ただの風邪だよ?」



困った様に笑いながら風邪だと繰り返す総司にまた言い返そうとしようとするとグイと強く肩を掴まれた
後ろを見るとたった今来たのであろう平助が肩に鞄を下げたままの状態で首を左右に振る
その姿にやっと正気を取り戻した俺はいつの間にか強く掴んでいた総司の手を離した

それを確認したらしい平助は俺と総司の間を取り持つかの様に間に割り込んでは俺達と肩を組んで笑った



「おっはよぉ!やっと二学期終わるなぁっ!」
「僕は通い始めたばっかりだから休みに入らなくてもいいんだけどね」
「んな事言うなって!冬休みいっぱい遊ぼうぜー!」



2人の楽しそうな声を聞きながら自分の掌をボンヤリ見つめる
被ってしまった、『総司』と…
最初の頃労咳をただの風邪だと言って、俺達も総司の咳がなかなかおさまらないのも風邪を拗らせているだけだと思っていた時と

だから、今もきっとまた嘘をついているのではないかと
また、俺の前から居なくなってしまうのではないかと
隣で笑う平助を横目で見つめ内心で礼を言った
あのまま言い返していたら総司と揉めてしまっていただろう



「はじめ君ってば!」
「っ、あ…スマンなんだ?」
「だーかーらっ!はじめ君も冬休み一緒に遊ぼうぜ!」
「あそぶ…か」




長期休みを誰かと一緒に過ごすなんて初めてだ
休みの大半は日々剣道の練習をしているし、空いた時間で本を読んだり宿題をしたり、勉強したり
友人の多くない俺にとっては別に普通の事だ
『遊ぶ』という事がいまいち想像つかなく思わずポツリと呟く
そして冬休みに入るという事は、総司に暫く逢えないという事だ
確かに寮の部屋は隣だがなかなか用もないのに行きにくい
用を作ったとしても度々逢いにいくのも迷惑だろう
思わず溜息が漏れそうになるのを何とか飲み込む
そんな俺をのぞき込みながら平助は首を傾げた



「そいやさ、2人は寮暮らしだろ?実家帰んの?」
「少し位は顔を出そうかと思っているが…」
「僕は帰らないよ、遠いから」
「正月も帰んないのかよー」

「だから、さっきも言ったけど僕は来たばっかりだよ?帰んないも何もこの間まで実家に居たし。大体、僕が帰っても厄介者扱いだしね」



自傷的な言葉とは裏腹に総司の表情からは清々しさすら感じられる
トゲトゲした言葉等気にしない素振りで平助は『へぇー』と納得した様な返事を返していた
そういう事ならお互い連絡先は知っておかないと話にならないだろうと、取り出されたスマートフォン
言われてみればこれだけ毎日逢って、話しているのに連絡先をまともに知らなかった事自体に少し驚かされた

ピロリンと音が鳴ってお互いの連絡先を交換する
電話帳に登録された沖田総司という名前が無性に胸を温めた



間もなくしてヒンヤリとした体育館で終業式は始められたのだが、静かな体育館に響く総司の咳の音が妙に気がかりだった









憂鬱な冬休み

(逢えない時間が2人を更に遠ざける気がした)






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