白紙の模範解答





大嫌いなモノが増えた


下らない授業
自分の事しか先生考えてない先生
分かろうともしない奴
薄っぺらい人間関係
学校の制服
ジャージ
独りの時間

素直じゃない、可愛くない自分



でも大好きになったモノも沢山ある


街中のイルミネーション
肌寒い空気
繋いだ手の温もり
誰も居ない学校
何気ない会話
英語の授業
英語の教科書


それと、スクアーロ






一週間位でテストは全教科返ってきた
英語以外は

返って来ない理由も放課後にこうして英語準備室に呼び出されている理由も分かる
俺が故意にした事だから



「ゔぉぉおい、どういうつもりだぁ」
「…」
「何とか言えぇ」
「…怒んないでよ」
「どういうつもりだって言ってんだぁ」

「書いてある通りだっての」


見なれた机、山になった教材
向かいに座っているスクアーロは大分お怒りだ
まぁそれも無理ないんだけど
ダンッと目の前に置かれたのは一週間前にやった英語のテスト

問題になっているブツだ


「なんでまっさらなんだって聞いてんだぁ。お前なら楽勝な問題ばっかだろうがぁ」
「まっさらじゃないじゃん。名前と、ココ…ちゃんと書いてあるじゃん」
「問題解けぇ」

「俺馬鹿だから分かんない」
「テメー…」
「だから書いたでしょ、ココに」


殆ど白紙の解答用紙の名前の他に唯一書いてある授業感想の欄を指先で示すとスクアーロは今まで以上に眉を寄せて睨みつけてくる


『補習希望』


たったの四文字だけど俺がテスト時間めいいっぱいを使って書いた答えだった
何をどう書けばいいのか
どう書けば俺のこの感情が伝わるのからしくもなく考えて出た答え


「こうしなきゃスクアーロ俺と話してくれないでしょ」
「だからって…」

「俺さ不器用だし、素直じゃねぇし、こんな事今まで無かったから何て言ったらいいか分かんないけどさ」


幸せを胸一杯感じたのも
誰かを愛しいと感じたのも
全部初めてだった


「俺は…スクアーロと一緒に居たい。隣に居たい」
「…」
「どうしたらいい?教えてよ」
「俺はお前の為にっ…」
「別に学校なんか辞めたっていいよ」

「…良くねぇ」


やっぱり、全部俺の為だったんだ
スクアーロの事、信じて良かった

怒った様な、呆れた様な、揺らいでいる様な
色んな表情を浮かべるスクアーロが無性に愛しく感じられる
昔の俺だったら、きっと、ずっと感じる事は無かったこの感情


「スクアーロ、俺の気持ち分かるでしょ?」
「っ…馬鹿がぁ」


やっぱりスクアーロは他の奴とは違う
全部、全部分かってくれる
素直じゃない不器用な俺を

そんな俺をスクアーロが好きだと言ってくれたから、俺もほんの少しだけ自分を好きになれたんだよ

目を見開いてからボソッと聞こえた言葉はぶっきらぼうだったけど優しかった
ギュッと抱きしめられてスクアーロに体を委ねる
肩口に顔を埋めるとスクアーロの匂いがした


「…卒業、まで待てぇ」
「…」
「お前がちゃんと卒業したらそれからはずっと一緒だぁ」
「ん…」

「左手の薬指、空けとけよぉ」
「うん」


クシャクシャと髪を撫でてくれる大きな手
頬を擽る長い髪
耳元に掛かる吐息
背中に回して、強く抱きしめてくる腕


やっぱり俺の答えは正しかったんだ


久しぶりの感覚に緊張していた体が緩んで目尻から流れてきた雫が凄く熱く感じた
スクアーロは暫く抱きしめて愛を囁いてくれた後、『補習希望』としか書いていないほぼ白紙の解答用紙に手を伸ばして









赤いペンで花丸マークを付けてくれた







白紙の模範解答

(答えは一つだけだよ)



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