*spooky night 設定
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自慢のバラ園のバラを使って淹れたローズティー、使用人に作らせたスコーンとクロテッドクリーム、そして向かい合った位置に座るなまえ。これらが毎日のティータイムには欠かせない。気品ある香りを楽しみながら、なまえの白い首筋に残る噛み跡を眺めるのが毎日の重要なルーティンのひとつであり、至福の時間だ。
いつもと違うのは、ティータイムの時間が二時間ほど前倒しになっていることと、ふたり揃っていつもより豪勢な衣装に身を包んでいることくらいだろう。バラをあしらったドレスで着飾って、なまえは緊張しているらしい。さっきから表情がすこし硬く、カップを持つ手にも力が入っているようだ。なるほど“いつもと違う”というのはこういった新鮮な楽しみももたらすのかと、自然と口角が上がるのがわかった。
今日は一年に一度の晩餐会がある日だ。この辺一帯の領主が主催となり、人ならざる者たちを集めてパーティーを催す日。霊たちが活発になる時期に開かれるこの晩餐会は、例年たいそう盛り上がる。吸血鬼である俺も主賓のひとりとして数えられている。いつもはひとりで向かうのだが、今年は手元に置いている人間の少女を伴って出かけることにした。だから今日はいつもより早起きをして、なまえをドレスに着替えさせ、早めのティータイムを楽しんでいるというわけだった。出かけるからといって毎日の楽しみを潰してしまうのは惜しいから。
ちらりと、なまえがカップに口をつけながら目線でこちらを窺う。どうした、と問えばなまえはカップをそっと置いて、遠慮がちに話し始めた。
「その……やっぱり、似合ってないんじゃないかと、心配で」
自信なさげに消え入りそうな声で告げたなまえは、俺の視線から逃げるように目を伏せた。職人を呼んで採寸をさせた時やドレスが届いた時と同じようなことを言う。いったいどうしてそんな考えになるのかはわからないが、彼女の弁によれば、平凡に生きてきた自分には本来分不相応なものだから怖くなるのだということらしい。なまえは俺が気に入った人間なのだから、俺が彼女のために選んだドレスも宝石も真っ赤なルージュも何もかもすべて、彼女に釣り合わない道理などないのだが。
「いや。よく似合ってる。おまえのために作らせた物だ、今日のなまえはこの森でいちばん綺麗だろうな。晩餐会でお披露目するのが楽しみだよ」
「……ガクさんが、笑いものになってしまうかも。そう考えたら居た堪れなくて」
「笑いものになんてならない」
両腕を広げて、こっちに来い、と促す。なまえは素直に席を立ち、俺の膝の上に座った。指先でクイ、と持ち上げる動作をすると、部屋の扉の方に置いていたチョーカーが浮き上がりこちらに引き寄せられてくる。宙をふわふわと漂うそれを掴み、不安げに眉を下げるなまえの首に巻いてやった。この噛み跡は俺たちふたりだけの秘密。なまえのもっとも甘美な部分を隠してやれば、出かける装いとしては完璧だ。
「ガクさん?」
「おまえは俺が百年以上生きてきて、初めて餌としてじゃなく人間として大事にしようと思った人間だ。他の誰もそうはなれない。だから安心して俺の隣にいればいい」
「……うう」
ちいさく呻いて、なまえが俺の胸元に顔を寄せる。いよいよ観念したか。この世のどんな女より可愛いくせに変に自信がなくて、いじらしいやつだ。「そういえば」胸元に顔を寄せたままなまえが問う。
「晩餐会は、いったいどんな方が来るんですか……?」
「言ってなかったか? 主催は悪魔の貴族で、氷使いのドラゴンとか……あと、死霊のたぐいなんかは結構な数が来るな」
「ひ……や、やっぱり私は留守番して」
「ダメだ。もう時間になる」
にっこり笑って頭を撫でてやる。窓の外を見やればいつの間にか夜の闇が下り始めていて、馬車も指示しておいた場所に待機しているようだ。一年に一度の夜、今年はいっそう特別なものになるだろう。なまえの手を引いて一歩踏み出すと、浮ついた心そのままに、軽快に靴音が鳴った。