寒くなって、木々の葉が散って、巳波くんがそわそわするようになってくると、もう冬になるんだと思わされる。十一月の暮れと十二月の頭にあるメンバーの誕生日と、その後に控えている――私の誕生日があるから。
巳波くんと出会って一緒にいるようになって何年か経つと、いつの間にかそれが季節の風物詩のようになっていた。何が欲しいかを聞かれたり、どこか行きたいところは、食べたいものは。質問ぜめに遭うことは存外、嫌いではない。ほかの誰かだったら鬱陶しいかもしれないけれど、巳波くんだけは別なのだ。私の答えを待つ巳波くんの両眼にさすきらめきを見るのが好きだから。
そうして当日、日付が変わった瞬間に巳波くんは私の名前を呼ぶ。なまえさん、聞き慣れているはずの音は不思議といつもと違う響きを持っている気がして、うんと答える私の声もつられて弾んでしまう。
「……お誕生日、おめでとうございます。今年も直接お祝いできて何よりです」
「うん。ありがとう」
「ふふ。今年も素敵な一日にして差し上げますから、楽しみにしていてくださいね」
巳波くんが笑う。巳波くんの誕生日よりも嬉しそうに見えるから、いいのかななんて思ってしまうけれど――いつだったか訊いた時には、好きな人を祝えることが嬉しいからだと言っていたっけ。大切な人を毎年祝えることは決して当たり前ではないからと。そうだね、と返したあの時は、いまいち実感はなかった。
「……。あのね、巳波くん」
「はい?」
「……、……普段、こういうことってあまり言わないんだけど……。私、生まれてきて、よかったなって……」
言いながら、やっぱり言うのをやめておいた方がよかったかもしれないと思い始める。言い慣れていないから恥ずかしいし。生まれてきてくれてありがとうって言ってくれる巳波くんはすごい、ポーカーフェイスが得意というのは伊達ではないのだと思わされる。役者なんだし、当然か。
けれどなんだか、風物詩のように感じられるくらい当たり前に私を祝ってくれること、私と一緒にいてくれることが本当の奇跡みたいに思えて、言わなきゃいけないような気がしたから。
巳波くんだってそうやって言葉にしたら喜んでくれるかもしれない、ちらりと窺った巳波くんは目をうるませて、――もしかして、泣きそうになっている?
「な、なんで泣くの。泣かないで」
「い、いえ。泣いてません。感極まっているだけで」
「それって泣いてるんじゃないの?」
「感極まっているだけですから、いいんです。その、なまえさんからそんな言葉が聞けるなんて」
大げさだよ、と髪を撫でると、迫力のない反論が返ってくる。それが面白くて思わず笑みがこぼれて、巳波くんの頬に指先をすべらせた。
私、生まれてきてよかったな。一緒にいてくれる人がいて、当たり前にお祝いしてくれて、嘘いつわりなくそう思えて。――思ったことを言葉にするだけで、好きな人がこうして笑ってくれる。奇跡みたいな今日はそれでも現実なのだと、私の手に重ねられた温もりが告げていた。