*楽→夢主前提(付き合ってない)
「なまえが上目遣いで見てくるやつ、あれ、めちゃくちゃかわいいよな」
また始まった。真面目に考え込んでいる風を装って、けれど締まりのない顔であるのが丸わかり。半ば呆れながらそれでもとりあえず楽の話を聞く。楽が彼女の話を始めると長い、そして大抵の場合中身がない――いや、ないことはないか。だいたいの場合、楽の言いたいことは、楽のお気に入りのあの人が楽から見ていかに可愛いかということだ。
面倒なのは、同意しても否定しても変な方向に話を持っていこうとすること。「なまえがかわいい」に対してそうだねと返せば「まさかおまえ、なまえを狙ってるのか?」と聞かれ、そうは思わないと返せば(本人のいないところとはいえそんな失礼なことを言おうとは思わないけれど)「なまえの魅力がわからないなんてな」と言われて滔々と彼女の可愛いところについて語られる。端的に言うと迷惑なのだけれど、向こうから突っ込んでくる以上うまく躱すことができなくて野放しになっている。
「……彼女の身長じゃ、大抵の男性のことは上目遣いで見ることになるでしょ」
事実である。彼女は女性にしたって小柄な方なのだから。けれど楽はしばらく考え込むようにして、そして眉間に皺を寄せた神妙な顔で「……おまえのことは見てない」とだけ呟いた。
うん。もうそれでいいから、そのなまえがかわいいって話、本人にしてあげた方がいいんじゃない? なんだか絶妙に腹が立って、そんなに彼女を独り占めしたいなら早く付き合ってしまえばいいなんて思ってしまった。……本当はそんなこと、普段の自分なら軽はずみに考えたりしないことなのだけれど。