携帯の向こうから聞こえる規則正しい呼吸音に、まるでなまえの部屋を覗き見しているような気まずさを覚えた。――覗きなんてしたことは断じてない。繋ぎっぱなしの通話を切ればいいのはわかっている。ただ、もう少し話したかったとか、遅くまで付き合わせて悪かったとか、 実は疲れていたのに無理して電話に付き合ってたんじゃないのかとか、色々と胸の中に渦巻いて、このままにしておくための言い訳を探している。
 いや、そんなのはカッコ悪いよな。おやすみ、なまえ。本当はなまえが聞いているうちに言いたかったそれをそっと囁いて、親指を動かす。通話終了、しようとした時だった。
「ん、……がくさん、ふふ」
 自惚れじゃなければ、幸せそうに俺の名前を呟いて、なまえはまた寝息をたて始めた。そっと通話を切って、息を吸う。心臓がやけにうるさかった。聞こえない振りはできそうにない。
 かわいすぎるだろ。顔の熱を自覚しながら、明日の朝なまえに飛ばすラビチャの文面を考える。おはよう、昨日は遅くまで付き合わせて悪かった。なまえの声が聞けてよかった。それから、――いい夢は見れたか?
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BLコンテスト・グランプリ作品
「見えない臓器の名前は」
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