色々と考えた末の私の見立てでは、幽霊とは永続効果を持つモンスターに近い性質のものだ。召喚された時点で幽霊はその効果を発動しており、それが持続的に適用され続ける。つまり先日の観察結果、なまえが幽霊の効果を発動させる効果を有しているというのは恐らく、厳密に言うと間違いであろう。
彼女が有しているのは、幽霊が存在する時に彼女自身の「幽霊を知覚する効果」を発動する効果。先日テレビでやっていた内容を取り入れて考えると、その効果名は“霊感”だ。霊感単体では特別なことは起こらないが、組み合わせる幽霊の効果の種類によっては強力なシナジーを発揮したり、逆に相性が悪い場合は自身を破壊し、墓地に行くことになってしまったりするらしい。
霊感にも種類があり、幽霊を視認できるものや触れられるもの、自身に幽霊を憑依させるもの、そして数多く幽霊を引き寄せてしまうもの。実に様々なようだ。ヒトは非常に興味深い生き物である。
特筆すべきは、この霊感という効果は誰しもが持つわけではないということだ。モンスターカードにも通常モンスターと効果モンスターとがあって、更に効果モンスターが持つ効果が多種多様なように、人間もまた個体ごとに持っている効果が違うというわけである。
だから私が触れようとしても、彼女以外――例えば明里は私を知覚できない。夕食の用意をする明里にふわふわと近づき、そっと、指先で背中をなぞる。持っている皿を落とすわけでもなく、真近に現れた私に驚くわけでもなく、明里はいつも通りにテーブルに皿を次々と並べていく。私のことが見える遊馬は、私の突然の行動にあっと声を上げた。
「お前、何してんだよ!?」
だが、そう。私の姿は明里には見えないのだ。つまり明里にとって、遊馬の言葉が向けられた先は自分自身。幽霊の効果は霊感を持たない相手には適用されないという効果外テキストは、見方によっては便利なのかもしれない。
「はぁ!? 遊馬! 姉ちゃんに向かってお前なんて、いい度胸してるわね」
「ちがっ……! 今のは姉ちゃんに言ったんじゃなくて!」
「私以外に誰がいるのよ!」
「いってえ……!」
*
「……君は馬鹿だな」
夕食を終え、部屋に戻った遊馬に声をかける。どうやら遊馬は、先程の件でふてくされているようだ。
「お前のせいで姉ちゃんに怒られたじゃねえか、何なんだよさっきの!」
「遊馬。君と初めて会った時、君は私に幽霊だと言ったな」
「はぁ? 何だよいきなり……そりゃ突然現れるし、透明だし、浮いてるし」
「幽霊とはどのような効果だと聞いたが、君ははぐらかした」
「そんなの突然聞かれても困るだろ!」
「それで私はやむなく、自分で知識を入手した。結果、私が持つ特定の人間にしか見えない性質や半透明の身体といった特徴は、たしかに幽霊と似通った部分があることがわかった」
「はあ……」
「先日、なまえがここに来た時のことだ。彼女も私のことは見えない。しかし私が近づいた時、敏感にそれを感じ取っていた」
それで私は先程、明里に同じことをして彼女が私を知覚できるかを試したのだ――と続ける。
「結果、明里は私の存在に気づかなかった。なまえには恐らく、霊感が備わっている」
「へー……。見えないけどわかるってこと?」
「そうだな。コミュニケーションは取れないが、感覚的に私がそこにいることはわかる様子だった」
「ふーん」
「随分と薄い反応だな、遊馬」
「だってさあ、結局喋ったりはできねえってことだろ? お前のことが見えるわけでもねえし、大して変わらねえじゃん」
「そうだな。だが私は彼女に興味がある」
遊馬にずい、と顔を近づけると、遊馬は軽く仰け反った。
「興味があるって……」
「観察をしようにも、私は君から離れることはできない。君の協力が必要というわけだ」
「協力って、何すりゃいいんだよ?」
「簡単なことだ。できるだけなまえと行動を共にし、私が彼女を観察できるようにする。頼んだぞ遊馬」
「待っ、俺は協力するなんて一言も言って……」
皇の鍵に戻る直前、遊馬が私を呼ぶ声を聞き流しながら身体を粒子化させる。私は一度興味を持つと、わかるまで調べずにはいられない質なのだ。
「っておい、消えんなアストラル!」