「そんなに丁寧にしなくたって壊れないよ」
大丈夫、となまえさんは微笑んだ。なまえさんの頬に添えていた左手に、彼女の細い指先が触れる。その薬指を守る銀の輪はきっと彼女の言葉の裏付けなのだろうけれど、どこか冷たさを感じる輝きが私を見据えているようで、どうしたって怖かった。
しっかりつかまえておかないと、なまえさんはいつかいなくなってしまいそうで。やさしく扱わないと、この幸せはいつか壊れてしまいそうで。心臓を撫で上げるような不安感に駆られて、いつだって私は彼女に恐る恐る触れて、そこにきちんと温度があることを確かめてしまう。
「……怖い、だなんて言ったら、なまえさんに笑われてしまうでしょうか」
私はなまえさんを好きで、なまえさんは私を好き。それだけですべてうまく回るなら良かった。もしそうだったら何も恐れなくて良いのだから。
「笑わないよ。怖いならこうしてあげる」
あ、と思った時には左手をつかまえられて、身体を引き寄せられていて。背中に回された腕でぎゅ、と抱きしめられた。
「これくらいなら、強くしていいよ。巳波くんも」
「なまえさん……」
「うん」
「好きです」
そっと唇同士を触れ合わせてから離れると、なまえさんは「うん」とだけ言って笑った。
彼女が目を細めるのを見てようやく、私たちは明日を変わらず迎えられるのかな、と信じることができるから――強く、熱く、激しく、ずっとずっと私のことをつかまえていて。それと同じように私があなたをつかまえていたら、きっと遠い未来でも、この幸福が変わらず日々を満たしてくれるのでしょう。