罰してほしい、とカペラ様は仰った。
それを聞いた私は何を言われたのか理解出来ずに、その整ったお顔を見つめることしかできない。伏し目がちな表情には、長い睫毛が濃い影を落としている。そして、その瞳は静かに閉じられた。まるで何かを懺悔するかのように。
ひとつ願いが叶うとしたら、カペラ様は何を願いますか――そんな質問を投げたのは、ほんの軽い気持ちからだった。きっとカペラ様なら、ベガ様の目覚めを願うだろうと、他愛もない話をするのと同じように、そんな問いかけをした。返ってきた答えは、私の想像よりずっとずっと重く暗い色をしていた。
「僕は……罰してほしい、と願うでしょう」
「……どうしてですか?」
カペラ様は瞼を押し上げると、その視線を神殿のほうに遣った。カペラ様が見つめているのは神殿そのものではなくて、その中で眠るベガ様なのだろうけど。
そう、ベガ様だ。あなたはベガ様に目覚めてもらいたいのではないの? その祈りのために千年も生きる人を罰するなんて、そんな願いが聞き入れられるわけもない。
「僕はベガ様の目覚めを待っています。もう、千年。途方もなく長い時間を、祈り、願いながら過ごしました。目覚めることのないベガ様に触れたくても触れられない、そんな日々を……いくつもの命を見送って、今日まで来ました」
「はい……だから、もしも願いが叶うなら、ベガ様を」
「……時々、思うのです。千年待っても目覚めてくださらないのなら、いっそすべてが終わってしまわないかと。僕もベガ様も何もかも関係なく、すべてが静かに終わるなら、訪れる気配のないいつかの日に期待をすることもなくなるのにと」
滔々と話すカペラ様は、ひどく優しい目をしながら神殿を――ベガ様を見ている。
「けれど、ベガ様が守ろうとしている世界の終わりを願うなんて、あってはならないことです。だから僕は、僕を罰してほしいと願うでしょう。ベガ様の命ある限り生き続けると願ったのは僕自身です。それなのに、ほんの僅かにでも終わりを望んでしまう、僕はこの罪を裁かれたい」
そうしてまたベガ様を待っていたいのです、そう言ってカペラ様は力なく笑った。待ち続けて疲れ果てた人の微笑みなんて、痛々しいだけだ。
ひとつ、願いが叶うなら。それならこれまでの千年間が報われるようなことを願えばいいのに。私がそんなことを思ったところで、きっとカペラ様にとっては的外れでしかないのだろう。千年という月日はあまりにも長すぎて、私には時間の手触りすら想像できないからだ。彼がどれだけ心をすり減らしたのか、希望と絶望が同居するこの日々をどんな思いで越えているのか、わかりようもない。理解しようとすることすら烏滸がましかった。
だから、もしも願いが叶うなら。私の願いごとは、カペラ様の祈りが届きますように、にしようかな。たとえばカペラ様が報われますように。たとえばベガ様が早くお目覚めになりますように。何も知らない私だから願えることが、きっとあるはずだ。願うもなにも、願いが叶うならというのはもしもの話でしかないのだけど。