女の歩幅に合わせて歩くなんて簡単だ。そんなスキルは、普通に過ごしていれば普通に彼女ができて普通に身につく。手を繋ぐことも、腕を絡めることも、それ以上のことだって、同じように簡単なこと。簡単な、こと。
「………」
 ふたりの間に冷えきった風が割って入る。見えない隔たりでもあるのかと思うほど、俺たちの間には変な隙間が空いていた。
 ポケットから右手を出して隣にいる女の前に差し出せばいいことはわかっている。こいつがそれを待っているから、いつまでも左手を宙ぶらりんにしていることも知っている。だがそれを見ても、手を繋ごうなんて言えないままだった。妙に恥ずかしくて、気安いことが言えないなんて。俺は一体どうしたというのか。
「……ねえ、虎於くん。手、繋ごうよ。手が冷えたから、あっためて」
「ああ……。うわっ、冷た」
「言ったでしょ、冷えたって」
 待ってたんだから。その言葉を裏づけるように、握った手は冷え切っていた。外気に晒されて冷たい手に触れて、俺の手まで冷えそうだ──そんな言い訳を心の中で唱えて、手を繋いだまま乱暴にポケットに突っ込む。
「あったかいな、ふふ」
「何だよ。手繋いだだけでそんなにニヤニヤするな」
「だって、虎於くんとだもの」
 そんなにうれしそうに笑うな。調子がおかしくなる。顔は熱いし、繋がれた手の感触は妙に浮いているし。ああくそ、強めに手を握れば、やんわり握り返された。

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