クリスマスなんてさ、と、デスクの方から声がして携帯から顔を上げた。無くなればいいのにねと言うその口は、もうとっくに子どもを卒業している。
「それはダメだよ。小学生が泣いちゃうもん」
「クリスマスなんてものがあるから泣く小学生だっているでしょ? じゃあこうしよう。サンタクロースの着る服は、悪い子を懲らしめた返り血で赤く染まってるんだ。嘘つきもいじめっ子もいばりんぼも、クリスマスの夜にプレゼントなんてもらえないのさ!」
「もっと泣いちゃうよ」
「……おまえはつまらない子だね」
拗ねたように言って、了さんは立ち上がってスーツをぴんと伸ばした。いい思い出ないのかな、クリスマス。ないだろうなあと何となく思う。
でも、今年はどうかな。色々なケーキ屋さんのカタログを眺めていたのを、実は知っていたりする。この前予約の電話を入れていたのも、実は聞いていたりする。
「でもさ、今年はパーティーするんでしょ? 特大のケーキ、頼んでたみたいだし」
「楽しそうに浮かれてる顔面に投げつける用のね。誰を選ぼうかなあ。ああ、いっそのこと四つケーキを予約した方が良かったなあ」
今度は楽しそうに笑った了さんに、曖昧に返答しながら携帯に目を落とす。
「四人に言わなくちゃ。二十四日はブラホワの決起集会をするよって」
言いながら携帯をポケットから取り出した了さんは、本当に素直じゃない。顔面に投げつける用のケーキにはマジパンのサンタクロースが乗っていることを、私は知っていた。