風が冷たくなって、コートの前を閉めたくなると、ああ冬だなと実感する。冬だなあなんて思っていられるのは最初のうちだけで、しばらくすれば朝の起きられなさや慌ただしくなるスケジュールにうんざりすることになるのだけど。
忙しくなる季節ではあるけれど、そのぶんイベントごとも多くなるから、結局のところ冬は嫌いではないというのが本音だ。クリスマスもお正月もバレンタインも、寒い冬に暖かくなれるイベントだということに間違いはない。
冬のイベントと言えば、もうひとつ。
「ねえ今年ヤバいね! 今からどっちにするか迷う!」
「ほんとほんと。去年も決められなかったけど、今年も迷うわ。ŹOOĻかっこよすぎ」
「でもアイナナも選びたいでしょ!」
「それなー!」
すれ違った女子高生たちの会話が聞こえてきて、またひとつ、冬を実感した。この前解禁された、今年のブラホワの告知を頭の中で思い浮かべる。
去年はTRIGGERとIDOLiSH7が戦ったブラホワの舞台に、今年はIDOLiSH7とŹOOĻが上がる。年末の風物詩たるブラホワには、目まぐるしく移り変わる流行が如実に反映される。この年末のテレビ局の特番編成に、去年あれだけ人気だったTRIGGERの文字はまったく無い。
──TRIGGERを好きな私は、誰を応援しようかな。流行というものは、いわば小さな世界だ。その小さな世界に置いていかれたような、白けた気持ちで見上げた視界に、ビルのモニターが留まる。ŹOOĻの新曲の宣伝が交差点に響いていた。
今年の冬は寒いな。閉めたコートの隙間から吹きつけた風が忍び込んできて、肩を縮めながら、そう思った。