食事を載せたトレイをテーブルに置くと、それが合図であるかのようにハルト様が駆け寄っていらっしゃった。お食事の時間です、と告げ、ハルト様の座られる椅子を引く。ハートの塔の外は、随分と暗くなるのが早くなった。夜闇に紛れカイト様が外へ出る時間も早まることだろう、と、心中で感想のようなものが生まれる。
「……もうすぐクリスマスだね」
「そうですね。ハルト様、お兄様にお願いするプレゼントはお決まりですか?」
「うん、決めたよ」
椅子に掛け、スプーンを握ったハルト様はスープにその先端を沈めながら、静かに呟いた。
「カイト様にお伝えしておきますので、お教え頂いても?」
「……、きみがいい」
「………」
ハルト様はスープをくるくるとかき回しながら、私を見つめてそう仰った。食器どうしの擦れる音だけが残る。今耳に届いた音声情報の通りなら、ハルト様は私をご所望のようだ。
「それは、私がカイト様に怒られてしまいます」
「……じゃあ、とびきり甘いパンケーキ。キャラメルソースとホイップの。夜の十二時ちょうどに、きみに持ってきてほしいんだ」
「お身体に障るのでは?」
「今まで兄さんの言うことを聞いていい子にしてたから、クリスマスだけ悪い子になるんだ。遅い時間にたくさん甘いものを食べて、夜ふかしするのを手伝って」
感情の読み取れない目が、それでも私に何かを訴えかける。子どもらしくない瞳はどうも苦手だ。私何ぞをハルト様の世話係にあてた上司を、頭の中でそっと恨む。
「でしたら、その通りに」
「ありがとう。……クリスマス、楽しみだな」
ハルト様はようやく、スープをひとくち啜った。冷めてやしないだろうか。色の無い瞳で「おいしい」と呟いたのを見るに、大丈夫だとは思うのだけれども。